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ディープ産駒”最後の輝き”か?新種牡馬台頭か?

 ディープインパクト産駒が最後の輝きを見せるか、新種牡馬が血統地図を塗り替えるか。19年夏に世を去ったディープインパクトは、今年2歳がごく少数で、22年ダービーが「ラスト・ダービー」となるかもしれない。ポスト・ディープの配合を概観しつつ、今年のダービー出走馬を血統面から探っていこう。

気になりだした「SS3×3」の種牡馬



 5月7日、東西で「ダービー最終便」が行われた。中京の京都新聞杯はアスクワイルドモア(父キズナ)が強烈なレコード勝ちを収め、東京のプリンシパルはセイウンハーデス(父シルバーステート)が好位から力強く押し切った。

 最終便1着をもぎ取った2頭には共通点がある。父がディープインパクト後継であること、そして血統表にサンデーサイレンス3×3があること。アスクワイルドモアがキズナ×母の父ゼンノロブロイ、セイウンハーデスがシルバーステート×母の父マンハッタンカフェ。父も母もSS系同士というインブリードは意識されたもので間違いない。

 「ポスト・ディープ」は19年夏にディープインパクトが世を去る前から、生産界の大きな課題であり、良駒を求めての配合のコンセプトは多岐にわたる。現在の内国産繁殖牝馬は「父サンデーサイレンス後継種牡馬」が相当数いる。その配合相手としては以下のパターンが考えられる。

 ①ロードカナロアのようなSSを持たない種牡馬。輸入種牡馬の多く。

 ②エピファネイアに代表される父SS後継の繁殖牝馬と配合するとSS4×3となる種牡馬。モーリス、リオンディーズなど。

 ①は常識的な選択。②からはエフフォーリア、デアリングタクトが出ている。そしてもう一つの選択肢がこれ。

 ③濃いめのインブリード承知でSS3×3となる種牡馬。

 東西ダービー最終便の結果から、にわかに③が気になりだした。その前兆は5月5日の船橋かしわ記念。むくつけきダート牡馬を向こうに回して逃げ切った牝馬ショウナンナデシコは父オルフェーヴル×母の父ダイワメジャー。一目瞭然のSS3×3だ。

 ③にはSS3代目の種牡馬が全て当てはまるので、これまでも試行数としては少なくない(と言って目に見えて多くもない)。17年シンザン記念をキョウヘイが制した時、リーチザクラウン×母の父ダンスインザダークの配合を見て、SSの濃さに驚いた人もいるはず。しばらく重賞級では鳴りをひそめていたが、昨夏の函館2歳Sでナムラリコリスが優勝。そして今春、5月に入って連鎖的に走り始めた。目に見えて数が多くないのは、同系同士の配合は忌避されるほどではなくとも、積極的に推奨はされないためだろう。血量的には25%となる「SS3×3」は、アドマイヤムーンやドゥラメンテのような「母の父サンデーサイレンス」種牡馬では頻出するからだ。ただ父、母の父SS系同士でSS3×3の馬がダービーまでものにすれば、少なからず潮目は変わる。そもそも欧州最強配合「ガリレオ×母の父デインヒル」はノーザンダンサー父系同士で産駒にはノーザンダンサーの3×4が生じる。サンデーサイレンスが配合表の3代前、4代前にスライドした現在、「ガリレオ×母の父デインヒル」に倣うなら、SS父系同士の配合で飛び切りのニックスが生まれる公算は決して小さくない。それがキズナ×母の父ゼンノロブロイや、シルバーステート×母の父マンハッタンカフェである可能性もまたあるのだ。

好走「ディープ×米国スピード系牝馬」



 前段では「ポスト・ディープ」の一例として、SS父系同士の配合で3×3上等を挙げたが、いささか先走りの感はある。19年生まれ世代ではディープ産駒は健在で、22年のダービーにも複数頭、出走馬を送り出すからだ。過去10年で7勝。現在4連覇中と、ディープのダービーへのこだわりはサンデーサイレンス以上。過去10年でディープインパクト産駒が馬券に絡まなかったのは14年の一度だけ。16年は1~3着と馬券圏内を独占した。今年、上位人気は他の種牡馬の産駒に譲るものの、ディープ産駒を検討しなければ血統コーナーの名折れだ。12年3着トーセンホマレボシが7番人気、15年2着サトノラーゼンが5番人気、18年1着ワグネリアンも5番人気、19年1着ロジャーバローズは12番人気。結構な人気薄でも走っていることもポイント。

 ディープ産駒の「ダービー仕様」配合は明確。それは「母が米国(北米)牝馬、特にスピード系」。

 12年1着ディープブリランテ=母米国産(ただし競走生活はフランス)
 13年1着キズナ=母カナダ産
 19年2着ダノンキングリー=母米国産
 20年1着コントレイル=母米国産(日本でマル外として出走して7戦0勝)
 21年1着シャフリヤール=母米国産

 今年のディープ産駒で母米国産はキラーアビリティ、コマンドライン、ジャスティンパレスの3頭。

 配合の傾向が過去の好走馬に最も近いのがコマンドラインだ。母コンドコマンドは米2歳GⅠスピナウェイS勝ち。コントレイルの祖母がやはり2歳G1勝ち馬(G1・2勝、米2歳牝馬チャンプ)。コンドコマンドの父ティズワンダフルはインリアリティやストームキャットの血を引くスピードを強調した血統だ。過去のダービー好走ディープ産駒は、母方にストームキャットを持つ馬が多い。

 キラーアビリティの母キラーグレイシスも米2歳G1勝ち馬。母の父はブラッシンググルーム系で米主流ではないが、母母父からエーピーインディ系を取り込んでいる。コマンドラインほど教科書通りではないが、やはり近年ディープのダービー仕様の配合と言っていい。

 ジャスティンパレスは半兄パレスマリスがベルモントS勝ちという良血だが、母方に開花の早いスピード系というダービー仕様のディープ配合とはコンセプトが違う。ディープ×母の父ヌレイエフ系の活躍馬はミッキークイーン。牝馬ならオークスに間に合うが、牡馬だと本格化は夏を越えての感あり。

 コマンドラインは毎日杯8着、キラーアビリティは皐月賞13着と大敗。ここまで負けたディープ産駒がダービーで一変した例はなく、あえて言うなら18年1着ワグネリアン(前走皐月賞7着)。ワグネリアンの母ミスアンコールは内国産(1勝)だが、祖母ブロードアピール(米国産、マル外として芝ダート短距離を中心に13勝、うち重賞6勝)で母方に米国スピード系の血がある。前例としては心許ないものの、見合うオッズになるとみてコマンドライン、キラーアビリティの一変は警戒しておきたい。

ドレフォン、キタサンブラック産駒は...



 ここまで結果として穴っぽい馬の血統を探ってきたが、今年のダービーでメインストリームは新種牡馬。

 ドレフォンが皐月賞1着ジオグリフ含め2頭。キタサンブラックが皐月賞2着イクイノックス。

 ビーアストニッシドの父アメリカンペイトリオット、先述したセイウンハーデスの父シルバーステートも3歳世代が初年度。

 ドレフォンは現役時代ダート6~7FでG1を3勝のダートスプリンター。ただ、その父ジオポンティは芝マイル~11FでG1を7勝のグラスホース。さらにその父テイルオブザキャットはストームキャット直子で、ダート7F~マイル近辺と芝を走った万能型。父系の流れとしては、競走馬として先祖返りしたドレフォンだが、種牡馬としてはダービー2頭出しを成し遂げる先祖返り(祖父)の産駒を出す一方で、自身の持ち味であるダート短めの産駒も出している。ふたを開けてみないと分からないタイプながら、東京芝2400メートルがベストとは言いづらい。芝でも小回りの方が向く。

 キタサンブラックはイクイノックスが自身のコピーを思わせる素晴らしい出来。この馬だけが理由ではないが、初年度(18年)種付け料500万円はその後400万→400万→300万円と下がっていたものの、産駒デビュー後の年は500万円に復帰してブックフル。平均レベルも低くないにせよ、ブラックタイド~キタサンブラックの系譜には一子相伝感があり、その正統後継者がイクイノックスである公算は大。近年のダービー好走馬が多く持つ米国的スピードの血統を持たない配合表だけに、摩擦の少ない上がりの高速決着より、底力のいる流れになってほしい。奇麗な跳びの馬だが、馬場も少し渋る方がいいかもしれない。

 皐月賞1、2着は前述のような評価。血統的に巻き返しがありそうなのが同3、4着馬のハーツクライ産駒2頭だ。

 皐月賞3着ドウデュースはマイラー質の印象だが、そもそも高速ダービーはマイラー質が必要。配合のコンセプトはスワーヴリチャード(17年ダービー2着)に近い。皐月賞で武豊が完全に脚を把握しており、逆転を狙っているはず。

 皐月賞4着ダノンベルーガは、皐月賞がトニービン持ちにとって鬼門の白帽。ジャングルポケット(皐月2番人気3着)、スワーヴリチャード(皐月2番人気6着)はいずれも白帽の皐月賞で窮屈な競馬をしいられ、東京のダービーで巻き返した(ジャングルポケット1着、スワーヴリチャード2着)。ダノンベルーガも先達に倣う可能性は十分とみた。

  • ◇仙波 広雄(せんば・ひろお)

  • 生まれ 1971年(昭46)8月29日
  • 血液型 O型
  • 出身 広島県呉市
  • 学歴・職歴 神戸大学大学院国際協力研究科修士課程修了
  • 特技・趣味 ベトナム語
  • 競馬記者歴 2000年9月~
  • フェイバリットホース ダイタクヤマト、スノーフェアリー、パイロ
  • 思い出のレース 10年エリザベス女王杯スノーフェアリー