竹中功のナニワ新報

Vol18 縁は異なもの鍋なもの

[ 2017年12月24日 20:14 ]

筆者と店主のラリーさん
Photo By スポニチ

 ラリーという黒人の友人がいる。彼と仲良くなったのは一枚の看板からだ。2年前、しばらくの間、住んでいたニューヨークのハーレムで珍しく日本語の看板を上げた店を見つけた。そのレストランの名は「鍋」。「NABE」ではなく漢字でそう書いてあったのだ。

 ハーレムでご飯を食べるとなると、ピザやハンバーガー、あとはミニスーパーみたいな所ででき合いの豆料理やイモやチキンの煮物を自分ですくって弁当箱に入れて持ち帰る「デリ」などしかなかったのに、珍しい看板を見つけた。

 漢字を使っているので日本人か、はたまたアジア系の人の経営なら大阪人の私の口にも合うかもしれないと思い、勇気を持って飛び込んだ。しかし当ては外れた。黒人のおばちゃんと白人のねぇちゃんだけが店員さんだ。そしてメニューは英語版だけ、そこには日本食と思われる「Hijiki」「Age Koimo」「Chikuwa Calamari」などと英語であり、後はうどんとそば類。

 私はとりあえず「Mekyabetsu」とビールを注文した。これが思ったより美味かったのだ。そこには歯ごたえもよく茹でられたゴマ風味の芽キャベツが出てきた。

 しばらくすると、ボブ・サップなみのガタイのいい黒人の兄ちゃんが奥から現れ、こちらに近寄って来た?

「Taste is good?」(美味しいか?)ぐらい聞いてくるのかと思って待ってたら、いきなり日本語で「どっから来はったん?」やて!

 このギャップ、吉本新喜劇なら椅子から転げ落ちるシーンである。

 彼はこの店のオーナーのラリー・パーカーといい、日本語がベラベラな理由を聞くと、大阪府枚方市の関西外国語大学に留学して日本語を学び、その後、日本の英語学校の先生もしていたからだそうだ。

 彼に聞く関西人とハーレムの黒人はよくジョークを言い合い、笑うのも大好きというのが似ていて、大阪が気に入り、結果7年も住んでいたという。そこで日本食に出会い、ハーレムでの和食レストランを考え付いたそうだ。

 そんなことで今年も彼を訪ねてきたのだが、さすが研究熱心なラリー、メニューに変化があった。

 注文する際、まずうどんかそばの麺を選び、次には「Plain KANSAI」「Plain KANTO」などと関西風味と関東風味の2種の出汁のどちらかを選ばせる。これは親切だと言えばそうなんだが、少々面倒だ。そしてそこにエビや鶏やナマズ(!)の天ぷらなどをトッピングできる。

 ここは関西風味の天ぷらうどんでもよかったのだが、選ぶのが面倒になった私は気になっていたメニュー「Yaki Soba」を注文する事にした。

 「Yaki Udon」なら一般的なうどんと野菜を炒めるものなんだが、ここは「和そば焼きそば」が来ると予想していたら、きっちりそうだった。しかしこれがまた美味。人参や玉ねぎを炒め、海苔や鰹が乗ってきた。油分も決して多すぎることもなく、サラッといただけた。

 実は私は和そばを使った焼きそばを生まれて初めて食した。ただネットで調べると、いくつもレシピが載っていたということはポピュラーな食べ物なのだろうか? その上、自宅で娘に聞くと「時々、作って食べてるで」と言う。みなさんはどうだろうか? どれぐらいの人が食べたことがあるのだろうか?

 そんな「鍋」だが、店の中の壁のペイントも地元の友人の日本人が書いたもので、しっかりニューヨークアートしてある。今も街なかに残る落書きも「さすが!」と唸らせるが、店内の壁も見逃せない。また店ではジャズやブルースのライブも用意されており、ハーレムで、うどんとジャズとはなかなか粋なものである。

 しかし、この店にはオチがつく。

 いまだに「鍋」と名の付くメニューはまだ何もない。それをラリーに聞くと、「アッ、忘れてた!」とひとこと。ギャグを用意していたのだ。

 ハーレムは怖いイメージがあると言うが、決してそんなことはない。ぜひここを訪ねて、ラリーの大阪弁を聞いてみてほしい。

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