高倉健さん養女・小田貴月さん新著で明かす最後の時「慌てるな…」別れから8年4カ月、やっと果たせた宿題

[ 2023年3月29日 05:00 ]

初めて顔出しで取材に応じた小田貴月さん(C)高倉プロモーション
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 高倉健さんの養女で、高倉プロモーション代表の小田貴月さんの新著「高倉健、最後の季節(とき)。」が29日に文芸春秋から発売された。健さんが2014年11月10日に83年の生涯を閉じてから8年4カ月。仕事復帰に執念を燃やした闘病の日々が初めて克明に描かれた。最愛の人が最後の1年をつづった貴重な命の記録だ。

 17年の時を共にした貴月さんが前著「高倉健、その愛。」を上梓したのが19年10月末。それからまもなくして世界はコロナ禍に巻き込まれた。命のはかなさ、尊さが改めてクローズアップされる中で、「僕のこと、書き残してね」と託された貴月さんも健さんの命の記録を残すことを決意する。

 健さんから「書き残して」と宿題を与えられた際、「これを読んでおいて」と手渡されたのが岩谷時子さんの「愛と哀(かな)しみのルフラン」だった。付き人だった岩谷さんが越路吹雪さんについて記した1冊。「越路さんの内面に迫った、本当にずっと一緒にいた方でなければ書けないものが書かれていました。“ああ、そういうことなのか”と後に私も気づきました」。

 手記は「冬うらら」「花曇り」「夏の霜」「青時雨」そして「山眠る」の5章で構成。14年の正月から書き起こされた。出演を決めた映画「風に吹かれて」と5月予定のCM撮影に備えて、健さんは4月に検査入院したが、そこで担当医から「悪性リンパ腫」を告げられる。

 「“何もしないとどうなるんですか?”と高倉が先生に尋ねると、“死にます”とストレートな物言いで…」

 信頼を寄せていた医師の言葉に健さんは「分かりました。治してください」と答え、治療に向き合った。

 病状は一進一退を繰り返したが、7月に入り、寛解を見て退院。8月は自宅で、送られてくる脚本に目を通すなどして穏やかに過ごしたが、同月の終わり頃にまた体調が悪化。左脇腹の痛み、頭痛が頻繁に襲い、9月4日に受けたCT検査で肺にリンパ腫の病変が出現していることが判明。検査入院した健さんが「僕は、この病気で死ぬのかな…」て弱気を見せたこともあったという。

 10月1日の検査で肺の腫瘍拡大が認められ、11月1日に再入院。酸素吸入が欠かせなくなっていく。次第に夢と現実の狭間を行き来するようになっていく健さん。亡くなる前日も映画の話を続けていたそうだ。そして10日に容体が急変。現場復帰に執念を燃やした健さんだったが、最後に聞きとれた言葉は

 「慌てるな、あ・わ・て…る……な……」だったという。

 都内の自宅に無言の帰宅をした健さん。1階キッチンの壁掛け時計の針は3時43分で止まっていた。まさに健さん最期の刻(とき)だった。

 みとりまでを克明に記した貴月さんもようやく肩の荷を下ろした。初めて顔出しの取材に応じたのも新たな1歩を踏み出そうとの決意の表れ。「私もリスタートします。次は高倉が食べていたものを再現する料理本を年内を目標に出版したい」と前を向いている。 (佐藤 雅昭)

 ◇小田 貴月(おだ・たか) 1964年(昭39)東京生まれ。女優を経て海外のホテルを紹介する番組のディレクター、プロデューサーとして活動。96年香港で高倉健さんと出会う。2013年養女に。

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