アントニオ猪木氏を撮り続けて50年 写真家・原悦生氏 「魅力があるから」

[ 2022年4月22日 07:50 ]

原悦生氏が撮影したアントニオ猪木対ムハマド・アリ戦
Photo By 提供写真

 【牧 元一の孤人焦点】1976年6月26日のアントニオ猪木対ムハマド・アリ戦を日本武道館の2階席から撮影したアマチュアカメラマンがいる。このほど新刊「猪木」(辰巳出版)を発売した写真家の原悦生氏だ。

 プロレス・格闘技ファンの間では伝説の一戦。生で見ただけでも価値があるが、写真に収めたとならば、なおさらだ。

 原氏は当時、大学2年生。「あの日は特別だった。友だちと2人で、5000円の切符を買っていた。行く以前に何度も、武道館にたどり着けない夢を見た。アリが来日した後も、本当に試合をやるのか疑心暗鬼だった。心の底から見たかった試合だったのだと思う。武道館に着いて、2階席の遠くの方にいても、緊張感があった」と振り返る。

 熱烈な猪木ファン。アマチュアとして初めて試合を撮影したのは1972年、高校1年生の春休み。以後、プロレスラー・猪木を追い続けた。

 「カメラもレンズも古く、モータードライブではなく、手巻きの1枚押しだった。アリ戦は少しだけリングサイドにも入れた。日本のカメラマンには取材用の帽子が配られていたが、海外のカメラマンには配られていなかった。私はヒゲをはやしていたので、たぶん、外国人に見えたのだと思う」

 アリ戦の写真の多くは2階席から望遠レンズで撮影したものだが、アマチュアとは思えない見事さだ。猪木がアリにハイキックを見舞おうとするカット、猪木がアリの上に乗ってひじ打ちを食らわそうとするカットなど、緊迫感に満ちあふれている。

 「粒子は当然荒いが、当時の自分のレベルとしては上出来かなと思う。猪木対アリ戦は一度しかない。本当に撮ることができて良かった」

 大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社して写真部に所属したが、その後、独立。猪木の主要な試合はもちろん、政治家としての姿、イラクや北朝鮮など海外での活動も撮り続けた。著書「猪木」には数多くの写真と文章が並んでいる。

 初めてプロレスラー・猪木を撮影してから既に50年。そこまで被写体に対して情熱を持てた理由は何なのか。

 「それは、猪木さんに魅力があったからだと思う。猪木さんが日本プロレスを追放された時、すぐに自分の会社をつくって自分のプロレスを始めたところが、まだ高校生で若かった自分の気持ちに勝手にリンクした。その魅力がなくなったと思ったら、たぶん、ここまで追いかけてはいない。全盛期を過ぎた後、最初は衰えが見えないような撮り方をしていたが、途中から、隠さずに撮った方が人間としての魅力が出ると思った。ありのままの猪木さんがいい」

 猪木氏は現在、闘病中。昨年、YouTubeで公開したリハビリ動画が視聴者に衝撃を与えたこともあった。

 「私はあの動画を見て、逆に、猪木さんは必ずはい上がってくると確信した。猪木さんは現役時代、試合前に瞑想してからトレーニングを始める時代があって、その時の姿とだぶって見えた。退院された後、お会いしたが、普通にご飯を食べていた。この先、外で元気に食事している姿を撮ってみたいと思う」

 これまで撮影した猪木氏の写真は数え切れないほど。その中で、もしも、撮り直すことができるなら、どの写真を撮り直したいだろう。

 「それは猪木対アリ戦。2人はあの時と同じ年齢、同じ状態で、私は当時より10歳くらい上がいい。カメラを今のものに替えてリングサイドで撮りたい」

 プロカメラマンとして脂がのった頃の原氏が全盛期の猪木氏とアリさんを撮る…。確かに、その写真は見てみたい。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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