谷川九段 王将戦を読む 戦略家・渡辺王将の準備に注目 藤井竜王も備えは万全

[ 2022年1月8日 05:30 ]

渡辺王将(右)と藤井竜王
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 第71期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負は9日、静岡県掛川市で開幕する。渡辺明王将(37)=名人、棋王=と藤井聡太竜王(19)=王位、叡王、棋聖=による史上初の3冠VS4冠を、王将4期の谷川浩司九段(59)が展望した。渡辺については昨年7月の棋聖戦以降タイトル戦がなく、長時間対局が減ったことによる勝負勘を不安視する一方、通算5期の「経験値」も指摘。藤井に関しては、昨年秋の竜王戦をストレート奪取したことによる勢いを挙げた。スポニチ本紙では決着までの全局、谷川による頂上決戦の展望と解説を掲載する。

 まず取り上げたのが、好対照な両者の調整過程だった。渡辺は藤井に挑んで3連勝された昨夏の棋聖戦から、タイトル戦がなかった。

 ましてや5月に名人を防衛以降、王将戦の持ち時間8時間に次ぐ長時間の対局は、5時間の竜王戦ランキング戦などが2局あるだけだ。対局自体、6月以降の7カ月で19局。うち1時間以下が12局に上る。

 時間感覚を取り戻すため、重ねたい実戦が少ない。「序盤研究は事前に進められても(研究範囲を超えた)新しい局面で、手がどう見えるか。やや、そういう不安を抱えての開幕になります」。名人挑戦権を争う6時間の順位戦なら月1回ペースであるが、挑戦者を待ち受ける立場の名人にはそれがない。「気持ちの上で楽な半面、ペースがつかみにくい」。十七世名人資格保持者は自らの歩みも顧みて語った。

 ただ転機になりそうなことが、クリスマスイブにあった。豊島将之九段(31)との竜王戦ランキング戦。持将棋指し直しで24日午前10時開始の将棋が、約17時間後の翌25日午前2時57分に終局。指し直しにこそなったが、結果的に勝てたことは将棋の神様からのプレゼントになった。

 加えて5期獲得の王将戦での経験値。2日制の対局翌日には着ぐるみに身を包んだりの写真撮影がある。対局の両日、昼食休憩時の短いインタビューも恒例だ。「お祭り的要素の強いタイトル戦だし、渡辺さんにとってはホームグラウンドといった感覚もあるのでは?藤井さんも順応性は高い。対局が進めば自然体で臨めるかなと思う」。渡辺は過去の7番勝負で5勝1敗の高勝率を誇ってきた。

 藤井にとっての好材料は棋聖戦以降、王位戦、叡王戦での勝利に続き、竜王戦が4連勝で終結したことだ。今年度45勝10敗(7日現在)は対局数、勝利数ランキング1位。それでいて、12月以降は竜王戦の残り3局が消えたことで公式戦は1局のみと、王将戦に備えることができた。

 1992年度の竜王戦。谷川は第2局が千日手指し直しになったため1局増えて決着が年越しに。その1月6日から1週間後の13日、王将戦開幕を迎えた経験を持つ。当時の記憶と照らし合わせても、約1カ月が長すぎず短すぎない、適度なタイトル戦空白期間。「(藤井は)リフレッシュになった。渡辺さんに比べるといい調整過程」と実感を込めた。

 他方、9月の銀河戦で持ち時間15分の早指し戦とはいえ、渡辺に敗れた意味は小さくない。対戦成績は藤井の8勝2敗だが、連勝は5でストップ。「(渡辺にとって直前の勝利は)気持ちの部分で大きい」。2日制では初対戦となる、戦略家・渡辺の準備に注目が集まる。

 ◇谷川 浩司(たにがわ・こうじ)1962年(昭37)4月6日生まれ、神戸市出身の59歳。76年、史上2人目の中学生棋士として四段昇段。神戸市の自宅が阪神大震災で被災した95年王将戦では、当時の全7冠制覇を目指した羽生善治6冠を4勝3敗で退けたが、翌年7冠独占を許した。5期の名人など通算27期。日本将棋連盟前会長。

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