「日本沈没」脚本・橋本裕志氏が明かす危機対応描写の裏側 主人公の名前はひらめき 松ケン軽やかさ感謝

[ 2021年12月12日 05:00 ]

「日本沈没―希望のひと―」脚本・橋本裕志氏インタビュー(下)

日曜劇場「日本沈没―希望のひと―」最終回。天海(小栗旬・左)と常盤(松山ケンイチ)は“希望のひと”になれるのか?(C)TBS
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 俳優の小栗旬(38)が主演を務めるTBS日曜劇場「日本沈没―希望のひと―」(日曜後9・00)は12日、2時間3分スペシャルで最終回(第9話)を迎える。国土を失う国民を救おうと可能性の扉をこじ開けてきた主人公・天海たち、そして日本の運命は…。脚本を担当した橋本裕志氏(59)が作劇を振り返った。

 小栗が2010年10月期「獣医ドリトル」以来11年ぶりに同局の看板枠・日曜劇場に主演。1973年に刊行された小松左京による不朽の同名名作SF小説を原作に、当時も扱われた題材「環境問題」を2021年バージョンとして鮮明に描く。原作に大きくアレンジを加え、舞台は2023年の東京。国家の危機に瀕してなお、一筋の希望の光を見いだそうとひた走る究極の人間ドラマがオリジナルのキャラクター&ストーリーとして展開される。

 主人公は環境省の官僚・天海啓示(あまみ・けいし)。「天」と「海」に「神の啓示」などと言う時の「啓示」。今作のテーマには象徴的な名前だが、ネーミングについて橋本氏は「ひらめきです。パッと浮かんできました。取りあえず付けてみて、スタッフの皆さんの反応を探ろうと。最初は『慧志』という漢字だったんですが、読み方が難しいので『啓示』に変更しました。大仰な名前かもしれませんが、『啓示』にしたことで、スタッフの皆さんが一層、この作品の主人公としての意味合いをくみ取ってくれたので。僕の場合、登場人物のネーミングはひらめきが多いです」と明かした。

 「情報開示の方法」「人命か経済か」など、関東沈没に対する東山(仲村トオル)政権の対応はコロナ禍当初の日本政府と重なるように感じられる描写もあったが、第1部(第1話~第5話)の政府の対応についてはコロナ禍が拡大する前に大筋を固めていたという。「少子化や格差の問題が声高に叫ばれても、どこか他人事のような空気を感じる日本政府は、沈没という危機に対しても対応が遅れることが有り得るのではないか」という想像から、危機意識の薄い政府を設定した。それに対して、天海が立場を顧みずに警鐘を鳴らしていくという対立構図を鮮明にするためでもあった。

 「コロナ禍に対する政府の対応が、脚本に影響したというわけではありません。前半部分は、その前に方向性を固めていましたから。ただ(自分が書いている脚本と)似たような現実の対応を見ていて(21年10月期の)視聴者の皆さんに『これって、既視感あるよね』と思われたら嫌だなと危惧したり、新鮮さは薄れる反面、『これって、去年のコロナと同じだよね』という感じで納得していただける可能性もある。プラスとマイナス、両方あるんじゃないかと思っていました。とにかくコロナによって危機管理の意識がどう変わっていくか想像がつかない中で、修正が必要になるかどうかを監督やプロデューサーとともに注意深く見守っていこうという認識で進めていきました」

 ブラッシュアップを重ねた執筆は1年数カ月に及んだが、映像化に工夫を凝らした現場にも感謝している。

 「例えば、松山(ケンイチ)君は作品が重苦しくなりすぎないようなお芝居をしていますよね」。第2話(10月17日)、天海と常盤の居酒屋のシーン。天海の謹慎を受け、常盤は「あの記事で総理は“激おこぷんぷん丸”らしいよ」。13年の「ユーキャン新語・流行語大賞」候補語50語にも選ばれた“懐かしのワード”は松山のアドリブだった。第3話(10月24日)、常盤グループ会長の父・統一郎(小野武彦)からバーに呼び出されるシーン。当初、父に対する常盤の台詞は「縁談の話なら勘弁して下さいよ」だったが、松山の提案により「縁談以外は勘弁だよ」と真逆のものに変更。「そういうふうに松山君が少しずつ役に軽やかさを出し、全体の重さを和らげる工夫をしているのは、ありがたかったです」。乃木坂46与田祐希(21)が店員役を演じる居酒屋のシーンも“オアシス”となった。

 10月3日には制作発表の会場を訪れ、キャスト陣にあいさつ。今春に撮影が終了済みだったこともあるが「皆さんが徹底的に役柄を咀嚼され、真摯に向き合われていることが、ひしひしと伝わりました」。田所博士役を“怪演”している俳優の香川照之(55)は制作発表の席上、「さっき(東山総理役の)仲村さんも『撮影が終わってから、現実の政治家の方々を見ると、とても優しい眼差しで見るようになりました。きっといろいろな事情があるんだろうな、言えないことがたくさんあるんだろうな』とおっしゃいましたが、つまり、立場がある人は言えないんですよ。田所は立場がなく、失うものがないので、ギャンギャンギャンギャン言うわけですよね。その中、このドラマの一番の幹というのは、主人公の天海が環境省の官僚という立場にもかかわらず、正しい方向のことを言っていく。天海だけが一言言うんだな、切り裂いていくんだな、と。それが、このドラマの存在理由だと思いました」。橋本氏も「そういう捉え方をされている香川さんは、本当に素晴らしいと思いました」と舌を巻いた。

 橋本氏が決してあきらめない天海たちの姿を紡ぎ上げ、毎回ラストの劇的展開を重ねてきた群像劇も、ついに最終回。日曜劇場最終回の2時間3分スペシャル(後9・00~11・03)は、同枠としては11年1月期「冬のサクラ」最終回(3月20日)と並ぶ10年ぶり最長タイの放送分数となる。

 【最終回あらすじ】東山総理(仲村トオル)を狙ったテロのニュースは全世界に大きな衝撃を与えた。国内の情勢が不安定と判断され、移民計画に影響が及ぶことを恐れた日本政府は、早急に里城副総理(石橋蓮司)を総理代行にして世界へアピール。しかし、移民計画が進行していた矢先、さらなる悲劇に襲われる。天海(小栗旬)や常盤(松山ケンイチ)ら未来推進会議が中心となって事態の打開に挑むが、状況は改善しない。そして、全世界から日本人移民の受け入れ停止が発表される。追いうちをかけるように田所博士(香川照之)は「日本沈没まで、もう時間がない」と警告。それでも天海は関東に残り、最後の1人を救うまで闘う決意を固めるが、ついに恐れていた日本沈没が始まる…。

 ◆橋本 裕志(はしもと・ひろし)1962年生まれ、北海道出身。89年に脚本家デビュー。「幽☆遊☆白書」「忍空」などアニメの脚本やシリーズ構成に携わり、98年4月期のフジテレビ「ショムニ」以降は実写作品中心に。ドラマはフジテレビ「ショムニ」シリーズや「ウォーターボーイズ」シリーズ、TBS「華麗なる一族」「LEADERS リーダーズ」、テレビ朝日「死神くん」「リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~」などの話題作を手掛けた。映画も「ビリギャル」「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」、現在ヒット中の「そして、バトンは渡された」など多数。

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