仲村トオル、一瞬一瞬全力で高みへ 2人の“とおる”で礎築き海外映画「生きていく場所が広がった」

[ 2021年10月17日 05:30 ]

優しげなまなざしをみせる仲村トオル(撮影・光山 貴大)
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 【俺の顔】仲村トオル(56)は2人の「とおる」で俳優としての礎を築き、さまざまな役柄へと発展させてきた。日本にとどまらず外国映画でも実績を残すなど、積極的に活動の場を広げてきたが「報われなかった悔しさ、苦しさ、つらさが前に進む原動力になった」と明かし、さらなる高みを見据える。指針としているのは、米大リーグの偉大なスラッガーの姿勢だった。

 「中間徹」。デビュー作となった85年の映画「ビー・バップ・ハイスクール」の主人公だ。大学2年の夏、アルバイトを探すため、求人情報誌を買いに行った書店で別の雑誌に載っていた「主人公2人を募集しています」の文字が目に留まった。オーディションで清水宏次朗(56)とともに主役に抜てきされ、演技経験ゼロで撮影現場に飛び込んだ。

 「カメラやスタッフの人たちが自分の方を向いている状況が単純に気持ち良かったんだと思います。もう一回、もう一回と言われても、最終的にはOKになって次に進むことができる。自分のやったことが認められたというような、子供っぽい喜びがあった気がします。走っている電車のドアを開けて人を蹴り落としたり、物凄く解放感があって自分の自由の範ちゅうが広がりましたね」

 「町田透」。翌86年の日本テレビ「あぶない刑事」で連続ドラマ初出演。舘ひろし(71)、柴田恭兵(70)ら大先輩にいじられながらも、実直に成長していく新人刑事役が好評を得た。後に映画化され、16年「さらばあぶない刑事」まで続く代表作の一本となった。

 「皆さん本当によく我慢して、自分のダメなところを見逃したり、ごまかしたりして育てていただきました。最初の頃の作品の再放送を見た時に、ダメだった頃の自分を見られるのは本当に困ると言ったら、恭兵さんに“俺たちは、そういうヤツとやっていたんだよ”と言われましたが、ありがたい先輩たちです。今思えばとてつもなく恵まれたスタートだったと思います」

 尊敬する松田優作さんが出演した米映画「ブラック・レイン」を見て、海外への憧れも抱いた。チャンスが訪れたのは98年。フジテレビ「眠れる森」を見た香港の映画関係者に請われ、99年「ジェネックス・コップ」に出演。02年の韓国映画「ロスト・メモリーズ」につながり、03年の中国映画「パープル・バタフライ」はカンヌ映画祭のコンペティションに選出された。

 「香港映画には脚本がないと噂では聞いていたけれど、本当に物語がどう展開するのかも分からない。不安感はありましたけれど刺激的で楽しかった。韓国では、それまでは常識だと思っていたことが、凄く狭いエリアのものだったんだと痛感しました。まさに、自分が生きていく場所が広がっていく感覚がありました」

 目の前にあることにベストを尽くすことを信条として着実に経験値を積み上げ、今年もドラマ出演が5本を数える。放送中のTBS「日本沈没―希望のひと―」では、役柄的には首相にまで上り詰めたが、決してゴールだとは思っていない。今後に向けた自身への期待を問うと、メジャー通算755本塁打、歴代1位2297打点のレジェンド、ハンク・アーロン氏の名を挙げ話に一層熱がこもった。

 「彼は自分の本塁打がフェンスを越える瞬間をほとんど見たことがないらしいんです。なぜなら、ボールを強く叩いてフェアゾーンに飛んだら一塁に全力で走る。見るのはベースと一塁コーチだけ。そんなチームのために打つ、走ることに徹した男が最も高みに達したというのが凄く好きなエピソード。僕もどこまで行けるか分からないですけれど、とにかく、その時のチームにとって戦力になる存在であり続けて、結果としてこんなところまで来られたのかとなれればと思っています」

 はるか先にある頂へ、視界は良好だ。

 ≪“出来のいい操り人形”に映画「愛のまなざしを」≫仲村が主演する映画「愛のまなざしを」(監督万田邦敏)が、11月12日から全国で順次公開される。妻を早くに亡くした精神科医が、元患者だった女性に翻ろうされていく愛憎サスペンス。万田監督とは14年ぶり4度目のタッグで「やっとかという感じでしたが、万田監督の作品を経験してから、自分の中で明確によく動く出来のいい操り人形でありたいと思うようになった。今回も万田監督が望んだ通りに動こうとした結果、自分がやったことではないような面白さがあり、改めて確認できました」と手応えを口にした。

 ◇仲村 トオル(なかむら・とおる)1965年(昭40)9月5日生まれ、東京都出身の56歳。86年、映画「ビー・バップ・ハイスクール」の主演で俳優デビューし、毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞を受賞。02年「ロスト・メモリーズ」では、韓国のアカデミー賞といわれる大鐘賞助演男優賞を韓国人以外で初受賞。その他の主な出演作に映画「行きずりの街」、ドラマ「チーム・バチスタ」シリーズ、「アナザー・フェイス」シリーズなどがある。

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