乙武洋匡氏 車いすラグビーで得意パターンに導く唯一の女性選手・倉橋香衣

[ 2021年8月27日 05:30 ]

乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(3)】フランス、デンマークを立て続けに撃破し、悲願の金メダルに向けて好発進した車いすラグビー日本代表。その中で特に注目してほしいのが、チーム唯一の女性選手である倉橋香衣だ。

 車いすラグビーは「殺人球技(マーダーボール)」という別名があるほど、車いす同士が激しくぶつかり合うイメージが浸透している。だが、緻密な戦略が必要となる頭脳戦であることもこの競技の特徴だ。各選手には障がいの程度に応じて持ち点が割り振られており、コート上の4人の合計点を8点以内に抑えなければならないというルールがある。こうした制限を設けることで、障がいの軽い選手だけでなく、重い選手にも出場機会が確保されるのだ。

 大学時代、トランポリンの練習中に首の骨が折れるほどの重傷を負った倉橋は、持ち点0・5のいわゆるローポインターだ。男女混合競技である車いすラグビーでは女子選手が出場すると0・5点がマイナスとなるルールがあるため、倉橋の持ち点は実質0点。つまり、他の3選手を障がいの軽いハイポインターで固めることができるのだ。日本には、池崎大輔、池透暢といった世界屈指のポイントゲッターがいるため、倉橋の存在は非常に貴重なものとなってくる。

 障がいが重く車いすを速くこぐことが難しい倉橋の主な役割はディフェンスだ。彼女の使用する車いす(ラグ車)の前部には大きなバンパーが取り付けられており、これで相手チームのハイポインターの動きを封じることが求められている。もちろん、相手選手は倉橋よりも動きが速いため、相手の動きを予測し、追いかける角度などを工夫する必要がある。「0点」の倉橋が相手チームのハイポインターを抑え、逆にフリーとなった日本のハイポインターがトライを重ねる作戦は、日本の得意パターンの一つだ。

 周囲よりできないことが多くあるものの、「自分にできること」で勝負してきた私にとって、倉橋の活躍は痛快そのものだ。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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