俳優の辻萬長さん 腎盂がんで死去 77歳 7月公表 来年大河「鎌倉殿の13人」降板 こまつ座看板役者

[ 2021年8月23日 15:12 ]

俳優の辻萬長さん
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 日本の演劇界を支えた俳優の辻萬長(つじ・かずなが)さんが18日、腎盂(じんう)がんのため死去した。77歳。佐賀県出身。葬儀・告別式は家族葬で執り行った。23日、所属事務所が発表した。今年7月、かねて腎盂がんを患っていたことを公表。治療に専念するため、出演予定だった来年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を降板していた。

 演劇における遺作は「鎌倉殿の13人」の脚本・三谷幸喜氏(60)が作・演出を手掛けた昨年7~8月の東京・PARCO劇場「大地 Social Distancing Version」(8月に大阪公演)。今月13日に放送されたNHK終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」が最後のドラマ出演となった。

 ワタナベエンターテインメント代表取締役社長の渡辺ミキ氏は「弊社所属の俳優辻萬長(享年77)が、2021年8月18日に腎盂(じんう)がんにより永眠いたしました。こまつ座在籍中を含め、これまでお世話になりました観客の皆様、演劇・映画・テレビ関係者の皆様に謹んでお知らせ申し上げると共に、故人になり代わって、生前のご厚情を心より感謝致します」と報告。

 辻さんは1962年、高校卒業後、劇団「俳優座」付属俳優養成所に14期生として入所。91年、井上ひさし氏主宰の劇団「こまつ座」に所属し、看板俳優として活躍。「雨」「紙屋町さくらホテル」「父と暮せば」など数々の井上作品に出演したほか、数々の舞台・ドラマ・映画を彩った。

 渡辺氏は「辻萬長は、数々の名作演劇作品の柱となった、かけがえのない俳優でした。とりわけ、日本を代表する劇作家・井上ひさし氏の作品への貢献は多大なるものでした。2010年の井上ひさし氏逝去後も、俳優として、作家を直接知らぬ観客や演劇人達に、井上氏の遺志を伝え続けました。そして、役を通して、作品を重層的に表現することが出来る、唯一無二の演技力を持つ俳優でした。それは時として、作家自身が意図をせぬ面にまで及び、作品をより高みへと押し上げ、支えたのです」「辻萬長は、作品づくりにはなくてはならない存在で、多くの作家や演出家に愛され、頼られました。演出家・蜷川幸雄氏の作品にも数々出演し、2016年の蜷川氏の葬儀には、「自分は稽古を続け、蜷川作品をより深める」と稽古場を離れず、最後の蜷川演出作品『尺には尺を』を力強く作り上げました」と功績を称えた。

 「鎌倉殿の13人」は主人公・北条義時(小栗旬)の祖父・伊東祐親役を演じ、大河ドラマ15作目の出演になる予定だった。代役は浅野和之(67)が務める。

 舞台「大地」は三谷氏がアテ書き。渡辺氏は「井上ひさし氏達からバトンを受け取った世代の三谷幸喜氏が辻萬長に当て書きした役は、辻の俳優人生のラストに相応しい働きをしました。コロナ禍でストップしていた演劇業界の再開公演にもなったこの『大地』で、辻萬長が最後に語った『観客無しで演劇は成立しない』という趣旨の台詞は、多くの演劇人と観客の想いでもありました。人生の最期まで良い芝居をしようと切磋琢磨を続けた稀代の名優・辻萬長の仕事は、これからは共に芝居を作った仲間である作り手、そして同業者である俳優の皆さんたちの表現の中に生き続けるのだと思います。それは、辻萬長が井上ひさし氏や蜷川幸雄氏から受け継いで、次の時代に演じ、渡したように」と結んだ。

 近年の映像作品はNHK「昭和元禄落語心中」、連続テレビ小説「なつぞら」、TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」「危険なビーナス」など。CGアニメ映画「トイ・ストーリー3」「トイ・ストーリー4」でMr.ポテトヘッド役の声を担当した。

 76年に文化庁芸術祭優秀賞(「ボンソワール・オッフェンバック」)、2001年に読売演劇大賞優秀男優賞 (一人芝居「化粧二題」)、03年に紀伊國屋演劇賞個人賞(「ロンサム・ウェスト」「雨」)を受賞した。

 ※「辻」は一点しんにょう。

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