乙武洋匡氏 もう一つの“代表”難民選手団の声よ届け

[ 2021年8月3日 05:30 ]

パレスチナ・ガザ地区を訪れた際の乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(9)】連日、日本人選手の活躍に沸いているが、私にはもうひとつ注目している“代表”がある。29人のアスリートからなる難民選手団だ。紛争や政治的混乱などの理由で母国を離れて暮らす人々は、世界で8200万人以上いると言われている。

 5年前にパレスチナのガザ地区を訪れた。下水のにおいが漂い、屋根のない家屋も点在する地域に難民たちは住んでいた。仕事を持つ人は、ごく一部だった。ヨルダンではシリア難民が住む地域を訪れた。裸電球がぶら下がる狭い一室に暮らす男性は、空爆で片足を失いながらも、ただ祖国に帰る日のことを夢見ていた。

 もちろん私が目にしてきた難民の暮らしは、ごく一部でしかない。これですべてを判断するのはあまりに危険だ。しかし、彼らの境遇や心境を想像するための貴重な材料にはなると思っている。

 29人の難民選手のうち最も注目を浴びたのは、リオ大会でも競泳に出場したユスラ・マルディニ選手だろう。シリア内戦により自宅を破壊された彼女は、17歳の時に姉とシリアを脱出。途中、ボートのエンジンが止まるアクシデントに見舞われたが、得意の泳ぎを生かして水中で4時間もボートを押し続けて、難を逃れた。

 残念ながら出場した女子100メートルバタフライでは予選敗退となったが、愛くるしい顔立ちやインスタグラムに日本のスカジャンを着た写真を投稿したことなどもあって、日本でも彼女のファンが急増中だ。

 そんな彼女が以前にインタビューで語っていた言葉を紹介したい。

 「難民問題は日本から遠い場所のできごとで自分に助けることなどできないと考えているかもしれませんが、それは違います。私たちの体験を聞いて、みなさんが難民のために何かをしたいと感じてくれれば、日本政府もきっと多くの難民を受け入れてくれるようになると思います」

 昨年、日本政府が難民認定したのは、わずか47人だった。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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