乙武洋匡氏 スケボーの「自分らしさ大切にする文化」壊さぬように

[ 2021年7月27日 05:30 ]

スケボーに挑戦する乙武さん
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(4)】昨年、初めてスケボーに挑戦した。四肢のない私だが、30分もすると恐怖心も克服でき、自然と笑顔になっていた。教えてくれたのは、チャンネル登録者数20万人超を誇る人気ユーチューバーのシモンさん。小学生の頃からスケボーに親しみ、10年前からスケボー関連の動画を投稿し続けてきたスケボー界の有名人だ。

 メダルラッシュに沸いたスケートボード・ストリート競技をシモンさんの解説付きでテレビ観戦するというぜいたくに恵まれた。「鬼ヤバい」「ゴン攻め」といった単語こそ聞こえてこなかったが、スケボー初心者の私にとっては全てが新鮮で、「ここは戦略的には安全にいきたいところなんですけど、スケーターには負けず嫌いな人が多いんで、攻めた技を見せにいくはずです」といった精神面から、「今の技はそんなに難しく見えなかったかもしれませんが、右利きの選手があちら向きで技を決めるのはかなり難易度が高いんです」といった技術面まで詳細に解説してくれた。

 チェコとのハーフであるシモンさんは、幼い頃から「ガイジン」といじめられてきた。不登校になった頃に出合ったスケボー。ローラーのついた一枚の板は、心から楽しいと思える時間と仲間を与えてくれた。シモンさんは「やっと居場所を見つけることができた」と当時のことを振り返る。

 シモンさんに限らず、スケーターには「枠にはまることが難しい人」が多いという。「みんながこうしているから」という空気には流されず、自分らしさを大切にする文化がスケーターには根付いている。そうした気質は、日本社会においては異質に映るかもしれない。

 今回のメダルラッシュに、シモンさんは「歴史が大きく変わった瞬間」と顔をほころばせる。だが、こんな言葉も印象に残った。

 「スケボーとは本来、競技ではなく文化なんです。今後、競技として見られることで文化が壊れてしまわないか、一抹の不安もあります」

 にわかファンの私たちは、せめてその文化を尊重する心を忘れずにいたい。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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2021年7月27日のニュース