乙武洋匡氏 失意の中、後輩気遣う体操・内村に感銘 寂しさとともに頼もしい指導者の誕生を予感

[ 2021年7月25日 05:30 ]

鉄棒の演技で落下した内村(AP)
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(2)】32歳。たしかに選手としてのピークは超えていたのかもしれない。それでも、彼が負ける姿を想像できていなかった。個人総合2連覇を果たし、7つのメダルを持つ“絶対王者”が、金メダル以外の結果に終わる事実を受け入れる準備ができていなかった。

 引き締まった肉体に、青と白を基調としたユニホーム。胸には日の丸が赤く輝いている。凜々(りり)しい表情で、今大会唯一の出場種目に絞った鉄棒へと向かう。H難度のブレトシュナイダーに続き、カッシーナ、コールマンと次々と離れ技を成功させた。しかし、ひねりの直後にまさかの落下。誰もが予期しなかった事態に、テレビの前でぼう然としてしまったのは、きっと私だけではなかったはずだ。

 20代の頃はスポーツライターとして多くのアスリートにインタビューしてきた。それだけに、試合後のインタビューで内村選手がどんな表情で、どんな言葉を口にするのかに関心があった。人生をかけて挑んできた、おそらくは最後の大会。それがこうした突然の幕切れを迎えたことを本人はどう受け止め、どう表現するのかが気になった。

 「土下座して謝りたい」

 案の定、“強い言葉”が報じられた。しかし、私が注目した言葉はそれではなかった。

 「僕はもう主役じゃないので。団体の4人、亀山とか決勝に残っているんで。彼らが主役です」

 「(今後は)キャプテンとして仕事をしなきゃいけないので」

 自分の“終戦”とじっくり向き合い、心の整理をするのに多少の時間が必要なはずだったが、彼の口からは主将として後輩たちを気遣う言葉が並べられた。失意の落下からこれだけの短時間で気持ちを切り替え、チーム全体を見渡すコメントを口にできる人間性に、あらためて舌を巻いた。

 「体操するのはもういいのかなと思っちゃった」

 ひとつの時代が終わったのかもしれない。もちろん寂しさはある。だが、それは同時に頼もしい指導者の誕生を予感させる言葉でもあった。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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