「おかえりモネ」名曲「かもめはかもめ」に託された思い 1番フル歌唱 りょーちん母・坂井真紀の説得力

[ 2021年7月6日 08:15 ]

連続テレビ小説「おかえりモネ」第37話。十八番「かもめはかもめ」を歌う美波(坂井真紀)(C)NHK
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 女優の坂井真紀(51)が6日に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)第37話で本格初登場。ヒロイン・永浦百音(清原果耶)の幼なじみで漁師の及川亮(永瀬廉)の母、新次(浅野忠信)の妻・美波役を好演した。在りし日の美波が研ナオコ(67)の名曲「かもめはかもめ」(1978年発売)をカラオケで歌うシーンが印象的。演出を担当した桑野智宏監督に坂井の魅力や撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 朝ドラ通算104作目。清原とタッグを組んだNHK「透明なゆりかご」やテレビ東京「きのう何食べた?」などで知られる安達奈緒子氏が手掛けるオリジナル作品。朝ドラ脚本初挑戦となった。タイトルにある「モネ」は主人公・永浦百音(ももね)の愛称。1995年に宮城県気仙沼市に生まれ、森の町・登米(とめ)で青春を送るヒロイン・百音が気象予報士の資格を取得し、上京。積み重ねた経験や身につけた技術を生かし、故郷の役に立ちたいと奮闘する姿を描く。

 第37話は、百音(清原)の母・亜哉子(鈴木京香)は実は新次(浅野)の通院を手伝っていた。かつて永浦家と及川家は家族ぐるみで仲が良く、耕治(内野聖陽)と新次、その妻・美波(坂井)は亀島で育った幼なじみだった。震災前の2010年4月、新次は新しい船を買う相談のため、よく永浦家を訪問。にぎやかな大人たち横目に、百音、未知(蒔田彩珠)、そして亮(永瀬)は静かにおしゃべりを楽しんで…という展開。

 第6週「大人たちの青春」(6月21~25日)で描かれた耕治と亜哉子の馴れ初め。22歳の耕治が「地元の島に忘れられねぇ人がいます」と亜哉子からの交際申し込みを断った、この女性こそが美波だった。

 両親たちの宴会に、百音は「私、りょーちん(亮)のお母さん、好きだよ。だって、明るいし、みんなのこと、すぐ仲良くさせちゃう。うちのお母さんが島に馴染めてるのも、りょーちんのお母さんがいてくれるからだよ」と感謝。

 宴もたけなわ、美波は「よーし、歌っちゃお!」と押し入れからカラオケを引っ張り出し、耕治・新次とともに14歳だった時の青春ソング、十八番の「かもめはかもめ」をいの一番に披露した。

 そして、新次の新しい船が完成し、餅まき。船をバックに新次・美波・亮の3ショットを耕治がカメラに収めた。第36話(7月5日)、亮が目にして涙したのが、この家族写真だった。

 時は流れ、11年5月。新次は携帯電話の留守番電話に残された最愛の妻の“声”を聞いている。3月11日、午後3時10分。「美波です。亮は学校にいるから、大丈夫。私も今、位牌持って家出るとこ。お父さん、船、沖に出せた?無理しないでね」…。

 SNS上には「言葉にできない喪失感に泣く」「こんなに仲良くて前途洋々だった家族がつらい」「だから、ずっとあのガラケーなんだ」「お母さんの大好きな歌にカモメが出るね。だから、りょーちんは寝床にカモメぶら下げてたの?お母さんの写真を見ながらカモメと一緒にお父さんといつか一緒に船乗るために、誰にも頼れずに一人で頑張ってるの?りょーちんには誰よりも幸せになってほしいよ。心から」「モネのおばあちゃんが及川家の写真の泥を落とし、おじいちゃんが進水式に渡した大漁旗の泥を落とす。永浦家はずっと及川家に寄り添ってくれてたんだね」「震災の日の夜を長い暗転と満天の星空で表現していて、かなり胸に迫った。震災が起きた日、停電している街の上で星空は本当に美しく輝いていて、自然には到底太刀打ちできない自分の無力さや喪失感を思い知ったんだよなぁ。そんなことを思い出した」「直接的には何一つ描かない。しかし、すべて分かる。猛烈な悲しみが伝わる。震災後の日本中に満ちた重い空気をドラマから感じて涙が出る」「ドラマチックに描くんじゃなく、日常が変わってしまっても日々は続くし、続けていくしかない人たちをちゃんと描いてるところが真摯なんだよな、この作品」などの声が相次いだ。

 “もう好きな人に電話もしない”という内容で始まる「かもめはかもめ」は脚本・安達氏の指定。「美波さんの声が残された携帯電話を新次はずっと大事に生きてきたし、おそらく、もう美波から電話がかかってくることもない。その『電話』というキーワード。もう1つは、海をイメージするかもめ。この2点から、安達さんが選曲されました」と桑野監督は明かす。

 さらに“かもめには独り旅が似合う”とする1番の最後の歌詞に心を奪われた。「この歌詞が、美波さんの運命のようで。撮影の時、坂井さんがこの歌詞を歌う姿に胸にくるものがありました。それで、編集でもカットせずに、そのままフルで使わせていただきました」。永浦家と及川家の何気ない日常の幸福を象徴する約2分のシーンとなった。

 坂井の起用を「是非」と強くプッシュしたのも桑野監督。演出を担当した09年後期の朝ドラ「ウエルかめ」でヒロイン・浜本波美(倉科カナ)が就職した「ゾメキトキメキ出版」の編集部員・須堂啓役を演じた坂井とタッグを組んでいる。

 「非常に柔らかく、温かい人なのは存じ上げていたので、“及川家の太陽”を演じられるのは坂井さんしかいないと思っていました。美波さんはあのいい男2人、耕治さんと新次さんが取り合った女性です。一方で、仙台出身の都会的な亜哉子さんとの対比として、島で育った海のにおいがする感じも欲しい。こんな難しい立ち位置が成立する女優さんは、なかなかいらっしゃらないと思います。第8週の初稿を読んだ時から、僕の頭の中の映像には、もう坂井さんが浮かんでいました」

 目下、“美波”坂井の出番は第8週のみ。しかし、“新次”浅野と“亮”永瀬の喪失感と再起を描くには、絶対不可欠な存在。わずかな登場でも、桑野監督が信頼してやまない坂井による説得力が必要だった。

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