藤井棋聖 史上初の10代九段&最年少防衛 快挙も通過点「強くなることで今までと違う景色が見られる」

[ 2021年7月4日 05:30 ]

第92期 棋聖戦5番勝負 第3局 ( 2021年7月3日    静岡県沼津市・沼津御用邸東付属邸第1学問所 )

タイトル初防衛に成功した藤井棋聖(撮影・島崎 忠彦)
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 ディフェンディングチャンピオンの藤井聡太棋聖(18)=王位との2冠=が最強の挑戦者・渡辺明王将(37)=名人・棋王含む3冠=を100手で振り切り、破竹のシリーズ3連勝で棋聖位を防衛した。同時にタイトル獲得通算3期に達し、規定により九段昇段も決定。18歳11カ月の藤井は、この両分野で史上最年少記録を樹立した。

 短距離走者がとるクラウチング姿勢のように上半身を前傾させ、放射する鋭い視線は将棋盤を溶かす勢いだ。中終盤の壮絶なねじり合いから一歩抜け出し、最後は絵に描いたような即詰みでの勝利。「ずっと苦しいのかなと思ってました」「防衛は意識していませんでした」「九段は最高位。光栄です」という局後の藤井は落ち着いていたが、その心臓は長距離走者のごとくバクバクと激動していただろう。

 棋界を代表する2者の激突は想像を絶する取っ組み合いになった。先手・渡辺の導入で今シリーズ初の矢倉戦。周到に用意した作戦をぶつける渡辺のペースで進行し、昼食休憩前には1時間超の長考を強いられる場面もあった。しかし返す刀で午後早々に渡辺を1時間以上の長考に追い込む。複雑怪奇な終盤には渡辺の飛車切りを緩手とみて逆襲へ。AIを超越する異次元のつばぜり合い。最後は自らの飛車をただ捨てする決定打をひねり出すフィニッシュだ。

 19歳の誕生日まで17日を残し、偉大な先達を全て追い抜く最年少防衛。「タイトルは防衛して初めて一人前。その結果を出せたのは良かった」と安堵(あんど)の息を吐きながら「でも一人前になった意識はないんです(笑い)。防衛に満足することなくこれからもやっていきたい」と表情を引き締める。

 タイトル3期で棋界最上段位にも上り詰めた。九段という呼称のイメージを「実績のある方ばかりで、息長く活躍している」と明かす。そして「自分もそこに加われるのはうれしい」と率直な心境を吐露。一方でタイトル数や年少記録に拘泥しない姿勢については「自分が強くなることで今まで見たことのない局面に出合える。強くなることで今までと違う景色が見られると思うので」と説明した。さらなる高みを目指すスタンスに変わりはない。

 偉業達成にも息つく暇なく、今後は豊島将之竜王(31)相手の王位戦と叡王戦が続く。「あまり喜び過ぎてはいけません」。最年少記録をことごとく塗り替えてきた藤井は、これからも未開の地を切り開いていく覚悟でいる。

 《渡辺王将 初の屈辱「飛車切り暴発だった」》渡辺にとって、序盤は完全に事前準備通りの展開。だが「いろいろあって、しばらく分からなかった。良くなった場面はあったが、具体的な手がなかった」と悔やんだ。タイトル戦通算39度目の登場で、ストレート負けを喫したのは今回が初という屈辱。「それは別に…。フルセットだろうが(敗退の)スコアには意味がないので」と潔くシリーズの完敗を認めた。

 感想戦では終盤に飛車を切った勝負手を中心に検討。ハッとするような思い切った攻撃だったが「あの飛車切りが暴発だった」「見切り発車だったのかな」と反省の弁を繰り返すばかりだった。

 《プロ棋士の段位》下位の四段から五段、六段、七段、八段、最高位の九段まである。九段に昇段するには竜王2期、名人1期、そのほかのタイトル3期のいずれかを獲得するか、八段昇段後、公式戦250勝を挙げることが条件。プロ棋士にとって段位は肩書でもある。ただしタイトル保持者は段位よりも称号が優先される。

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