「不交付は違法」の判決は当然でしょ!

[ 2021年6月25日 16:20 ]

ピエール瀧
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】至極真っ当な判決と受け取った。コカイン使用の罪で、出演したピエール瀧(54)の有罪が確定したことを理由に、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が映画「宮本から君へ」の助成金交付を取りやめたのは違法だとして、映画製作会社「スターサンズ」が起こした訴訟。東京地裁は6月21日、「処分は裁量権の逸脱で違法」として不交付決定を取り消した。

 映画は2019年9月27日に公開。ちょうど完成したタイミングの3月に瀧が麻薬取締法違反容疑で逮捕され、7月に執行猶予付きの有罪判決が確定した。これを受けて、芸文振は「公益性」を理由に内定していた助成金1000万円の不交付を決定。スターサンズは、不交付は憲法が保障する表現の自由の侵害に当たるなどとして訴えていた。

 報道によると、清水知恵子裁判長は「映画製作会社は犯罪行為とは無関係」とした上で、スターサンズが芸文振から再編集を求められていたことにも触れ、「助成金を受けるために意に沿わない再撮影を強いることになれば、芸術団体の自主性が損なわれる」と述べた。

 閉廷後の会見で、原告側の弁護団は「画期的」と評価したが、スターサンズ社の河村光庸社長は「芸文振と文化庁には文化芸術における公益性とは何かを明確に答えて欲しいと思っていたが、最後まで答えなかった」と、その点については不満をのぞかせた。

 裁判で助成金は製作予算の約8分の1に当たることが公にされた。つまり「宮本から君へ」は約8000万円で作られたことになる。何億円も投じながら、たいして話題にならないまま消えていく映画も少なくない大手作品に比べて、ギリギリの予算での製作。そこからさらに削られてはたまらないだろうと、清水裁判長も汲んだ。

 「宮本から君へ」は新井英樹氏(57)の漫画が原作。新卒営業マンの「宮本」が恋に仕事に不器用ながらも成長していく姿を描いた。真利子哲也監督(39)がメガホンを取った映画版は、池松壮亮(30)と蒼井優(35)の体を張った演技もあって大評判。出演者個人を含め、多くの映画賞で高い評価を受けた。

 2017年の「あゝ、荒野」(監督岸善幸)、19年の「新聞記者」(監督藤井道人)、20年の「MOTHER マザー」(監督大森立嗣)など、このところ毎年のように骨太の作品を放っているスターサンズ。毎日映画コンクールやブルーリボン賞でも欠かさず受賞作、受賞者を出し、21年の年初も藤井監督の「ヤクザと家族」が評判を呼んだ。

 パンチのある作品で映画界に風を起こし続ける同社。よもやそんなことはないと思うが、今回の件で疎まれ、今後申請しても助成金が受けられないといった状況にならないように見守る必要もありそうだ。

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2021年6月25日のニュース