藤井棋聖 史上最年少防衛へ完勝発進、後手番も渡辺王将の仕掛けすかしカウンター“KO”

[ 2021年6月7日 05:30 ]

第92期棋聖戦5番勝負第1局 ( 2021年6月6日    龍宮城スパホテル三日月 )

渡辺王将(右)に先勝し感想戦に臨む藤井棋聖
Photo By 代表撮影

 自身初のタイトル防衛戦に臨んだ藤井聡太棋聖(18)=王位との2冠=が渡辺明王将(37)=名人、棋王含め3冠=を90手で下した。大苦戦した過去の先例にあえて飛び込みながら、中盤以降は徐々にリードを奪い、そのまま押し切る横綱相撲。隙のない快勝劇で幸先のいいスタートだ。

 ハラハラドキドキの、手に汗握るクライマックスではない。築いたリードを1手ごとに広げ、気がつけば大差をつけていた。つい8日前に名人を初防衛して3冠を維持した現役最強棋士を投了に追い込んだ藤井は「まずは1勝することができて良かった。(4筋に)桂を跳ねて自王の危険度が解消され、それで抜け出したと思いました」と神妙な表情で振り返った。

 番勝負の開幕戦は開局直前の振り駒まで先後が決まらないため、作戦は複数用意しなければならない。後手となった今回は、渡辺がともに飛車先の歩を突き合う相掛かりに誘導した。直近の同カードだった2月11日の朝日杯準決勝を寸分たがわず踏襲する立ち上がり。4カ月前の激戦は最終盤に渡辺の緩手を見逃さなかった藤井が劇的な逆転勝利を飾ったが、裏を返せば敗戦寸前の大苦戦だった。

 そのネガティブなイメージにも勇気を持って飛び込んでいく。渡辺の研究筋に「どうぞ」とばかり身を委ねる。タイトル戦で初めて上座に就いた意味を誇示するかのように。

 渡辺の8筋の仕掛けをすかしてカウンター。飛車取りを2度にわたり手抜きし、相手王の近くにと金をつくる。そして自らの角道を開けて攻撃に厚みを持たせた。最終盤は桂4枚を手駒にして王頭へ猛攻。さしもの名人もお手上げの投了図が残された。

 思い起こすは、昨年6月8日の第1局。最終盤まで際どい攻防が続き、最後は渡辺の鬼のような16連続王手を正確無比にかわした藤井が勝利をつかむ空前絶後のフィニッシュだった。1年後の同じ舞台で、同じ相手に、今度はコールドゲームに等しい爆勝。「初めての防衛戦。それを意識せず、昨年と同じと思ってましたが…今日に関しては、自然な気持ちで指すことができました」。コメントにも棋譜同様の余裕が漂う。

 1月末には高校を自主退学。4月に予定されていた東京五輪の聖火ランナーも辞退。全ては「タイトル戦に集中したい」が理由だった。その成果がこの日指された驚愕(きょうがく)の進行なのか。「次局もいい内容にできるように準備したい」――その第2局。勝てば史上最年少防衛と史上最年少九段に王手がかかる。拍子抜けするくらい、あっさりと。

 ▽昨期VTR 第1局は藤井が渡辺得意の矢倉に誘い込み優勢。終盤、渡辺が16回連続王手の大逆襲をかけるが冷静に対処した。第2局は藤井が90手で渡辺を破り連勝。藤井の58手目3一銀は、最強コンピューター将棋ソフト「水匠」が6億手読んだ末に最善手となる異次元の手だったとして世間を驚かせた。第3局では昼食休憩に入った正午時点で76手のハイペース。142手でカド番の渡辺が1勝を返した。第4局は藤井の飛車・角が終盤まで活用できない劣勢に陥ったが渡辺の読み筋になかった80手目3八銀を着手し逆転。タイトル獲得最年少記録を更新した。

 ▽棋聖戦 将棋8タイトル戦の一つ。1962年創設。94年まで年2度開催。現在1、2次予選を経て16人で決勝トーナメントを戦い、勝者が6、7月ごろに保持者と1日制の5番勝負に挑む。決勝トーナメントと5番勝負の持ち時間は各4時間。

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