大河「青天を衝け」草なぎ剛 一期一会の芝居の魅力

[ 2021年5月31日 08:30 ]

NHK大河ドラマ「青天を衝け」で、激しい雨の中、平岡円四郎(堤真一)の遺体と対面する徳川慶喜(草なぎ剛)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】5月30日放送のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で、徳川慶喜(草なぎ剛)が側近の平岡円四郎(堤真一)の遺体と対面して号泣する場面が秀逸だった。

 斬殺されて邸内に運び込まれる円四郎。知らせを受けて走り寄る慶喜。周囲は激しい雨。慶喜は地面に座り込み、泣き崩れる。大量の雨のために涙ははっきりと映っていないが、画面からはしっかりと慶喜の悲しみの深さが伝わって来た。

 演出した村橋直樹氏は「僕はすぐに雨や雪を降らせるのでスタッフから嫌われる」と冗談まじりに話しつつ、「脚本は『雨が降りそうな…』という表現だったが、あえて雨にしてみた」と明かす。

 そこには草なぎの独特の芝居を際立たせる狙いがあった。村橋氏は「涙を流すシーンだから、本当は雨を降らさない方が効果的に映るのかも知れない。しかし、逆に涙を見せたくなかった。草なぎさんのお芝居には、形ではなく出て来るものがあるので、あえて涙を隠すために雨を降らせた」と説明する。

 形ではないもの。それを言葉で表現するのは難しいが、確かに、あの場面には涙やおえつを超えた何かが映っていた。あえて言うならば、それは草なぎの真心かもしれない。

 村橋氏は「本当に凄いものが出た。あの場面はカメラ3台で、ひたすら草なぎさんを撮ろうという態勢だった。撮り終えて、とてもホッとしたのを覚えている。雨で覆われている中でも涙やおえつが伝わって来た。草なぎさんは形を超えたものが出てくる人。想像以上のものが出た」と手応えを強調する。

 以前、草なぎはこの大河に関して「時代劇だからと言って、あまり構えずにやりたい。なるべくフラットで、先入観を持たずにやりたい。僕の素に近くていいのか、と思っている」と語っていた。心掛けているのは自然体であること。脚本は自分の部分しか読まず、物語の内容を全て把握しているわけでもないという。

 村橋氏は「草なぎさんとは意識的に話さないようにしている。脚本の意図、演出の意図もあえて伝えていない。あの場面に関しても『雨を降らせようと思っている』くらいしか話していない」と語る。

 もしも、芝居に「秀才型」「天才型」の分類があるならば後者。深い思考ではなく、鋭い感覚で芝居をする役者と言えるかもしれない。

 村橋氏は「草なぎさんの芝居は本当に1回限りのもの。狙って技術的に組み立てていくものではない部分がある。本番でしかあのレベルの芝居は出てこない。本番1回限りのものだから、撮る方も緊張する。どんなものが出て来るんだろうと、本番が楽しみな俳優さん」と語った。

 一期一会の芝居の魅力を楽しみたい。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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