ホラー映画「野良人間」 えたいの知れない恐怖

[ 2021年5月18日 09:40 ]

映画「野良人間 獣に育てられた子どもち」のポスター

 【牧 元一の孤人焦点】こんなホラーは見たことがない。21日公開のメキシコ映画「野良人間 獣に育てられた子どもたち」。関係者はこの作品について「実話を基にしたドキュメンタリータッチのホラー」と説明する。

 まずはタイトルに引きつけられる。「野良」は犬や猫につけられる言葉で、人間に用いられた例を知らない。「野良人間」とは何なのか?ポスターには異様な子供の姿がある。伸びた髪は汚れ、顔は黒ずみ、床に手をついている。

 作品の内容はこんな感じだ。舞台は2017年のメキシコ南西部の山岳地帯。1987年に民家で火災が発生し、焼け跡から1本のビデオテープが発見されたが、その後、紛失。約30年ぶりに見つかったビデオテープに映っていたのは、尋常ではない子供たちの姿だった…。

 この映画に関わる叶井俊太郎プロデューサーは「見つかったビデオテープの映像が見どころ。1987年当時のビデオに写っているものはいったい何なのか?映画を見て確認してほしい」と話す。

 公開に先立って映画を見たが、ビデオの映像は古めかしく荒れた感じで不鮮明。写すべきものをちゃんと捉えていない場面もあり、よく見えない分、逆に怖さを感じる。

 子供たちを保護する男の存在も不可思議。ビデオには子供たちを教育する過程が収められているが、次第に異様な状況に陥ってゆく。通常なら会話できる年齢の子供たちが言葉を発しないところが不気味さを募らせる。

 興味深いのは、この作品が「実話を基にした」とうたっている点だ。ニュースサイト「TOCANA(トカナ)」の角由紀子編集長は「確かに、これと似たような話が世界にはある。ロシアで、育児放棄された子供が猫と一緒に暮らし、猫の鳴き声をまねしているうちに人間の言葉を話せなくなって保護された例がある」と指摘する。

 公開の経緯について叶井プロデューサーは「海外のホラー映画祭で受賞したメキシコ映画があると聞いたのがきっかけ。『ドキュメンタリータッチの謎の映画』『ビデオテープに何かが映っている』という部分に興味を持った。こんなにえたいの知れない映画はあまりない。日本の映画界では製作するのが難しい作品だ」と説明する。

 角編集長は「タイトルやポスターの雰囲気からB級ホラーと思いがちだが、見た人から『社会派の高級ホラー』という声も上がっている。見た後、1週間くらい不気味なものを引きずる、奥に刺さるホラー」と話す。

 実際にこの映画を見終わった後、複雑な思いにとらわれた。本当に恐ろしいのは、野良人間なのか、それとも…。胸に生じた霧がいまだに晴れない。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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