石川さゆり 紅白「天城越え」は「鬼滅」音楽担当とコラボ 「歌にその時代の呼吸を」

[ 2020年12月29日 08:30 ]

石川さゆり
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 【牧 元一の孤人焦点】大みそかのNHK「紅白歌合戦」で、石川さゆりが「天城越え」を歌う。この曲を紅白で歌うのは12回目。今回は社会現象になったアニメ「鬼滅の刃」の音楽を担当する作曲家の椎名豪氏とのコラボレーションとなる。

 「天城越え」が発売されたのは、34年前の1986年。♪誰かに盗られるくらいなら あなたを殺していいですか…。その歌には尋常ならざる世界観が広がる。

 石川は「最初は歌いたくないと思いました。どう歌えば良いか分かりませんでした。歌詞が自分の生活、経験とかけ離れていたからです。作詞の吉岡治さんに『この歌は分からないです。どうしたらいいのですか?』と聞くと、吉岡さんは『演じればいい。自分の中から出そうと思わないで』と答えてくれて、その宿題を消化していきました。それまで私はまじめに自分の経験から出るものを歌っていましたが、この曲から、経験にないものを感覚的に歌う楽しさを感じるようになりました」と話す。

 新境地を開いたこの曲で、同年の大みそか、初めて紅白の紅組トリを務めた。以来、発売当初は売れなかったこの曲が日本全国に広く深く浸透していった。

 「今年、瑛人さんの『香水』を聞いて、ふと考えたことがあります。その人の香りでいろいろなことを思い出す…。そこには、人の記憶という大きなテーマ、どんな時代でも変わらない普遍性がある。『天城越え』にも、♪隠しきれない移り香が…という歌詞があります。この曲は激しい女の情念を歌ったものではありますが、『香水』と同じような普遍的なテーマがあるのではないかと感じました」

 紅白では2007年から「津軽海峡・冬景色」と「天城越え」を交互に歌って来た。それは、この2曲が、日本人の心に、普遍的な歌として根付いたあかしでもある。

 「新しい歌も出して来たし、みなさんが『いい歌だね』と言ってくださる曲も作ってきたので、最初の頃は、なぜその曲を歌えないのかとNHKのスタッフさんに言ったこともあります。けれど、ある時、NHKのスタッフさんに『津軽海峡・冬景色と天城越えは除夜の鐘と同じで、みなさんは紅白であの曲を聞いて年を越して新しい年を迎えるのです』と言われ、それがとてもありがたかった。みなさんがそのように感じてくださる曲を持っている私は、なんて幸せな歌い手なのだろうと思いました。その代わり、同じものをただ歌っていくのではなく、NHKのスタッフさん、私のスタッフと一緒に『その年の楽曲』として作って歌っていこうと考えました。歌はその時代の呼吸をしなくてはいけない。それが私の思いです」

 一昨年の「天城越え」はギタリストの布袋寅泰、和楽器とのコラボ。昨年の「津軽海峡・冬景色」は令和のスタートとして、時代の幕開けをイメージした演出を施した。

 「今年、この歌をみなさんにしっかり届けるにはどうしたら良いかを考えた時、たくさんの人たちの心に染みた『鬼滅の刃』とコラボしたいと思いました。なぜ、あの作品がみなさんの心をとらえたのかを考えると、どんな困難に直面しても、大きな愛を持ち、みんなで力を合わせて乗り越えて行こうという思いがこめられているからではないかと私は思いました。それはコロナ禍という大変な局面を乗り越えようとしている今の私たちの思いでもあります」

 今の時代を象徴する作品とのコラボ。それが紅白のステージでどのような化学反応を起こすのか注目される。

 「『鬼滅の刃』の音楽を担当していらっしゃる椎名豪さんと一緒に作っています。ただ、歌の素性は曲げてはいけないと思っています。歌にはみなさんの心にすみついたものがありますから。今年の思いを全て洗い流していただけるような、心がピカピカになるような、この状況に打ち勝ってまた楽しい日常を取り戻そうと思っていただけるような歌をお届けしたいと思います」

 満ちて、欠けない、石川さゆりのバイタリティー。年明け1月27日には新曲「なでしこで、候う/何処へ」を発売し、2月22日にはツアーをスタートさせる。新たな時代の中での躍動がさらに続いてゆく。 

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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