「エール」窪田正孝“激動”の撮影振り返る「やり切った」唯一の心残りは打ち上げ “静の芝居”が財産に

[ 2020年11月25日 08:15 ]

10月29日に主演を務めた連続テレビ小説「エール」の全撮影を終え、クランクアップを迎えた窪田正孝。最終回目前、13カ月にわたる撮影を振り返った(C)NHK
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 3月30日にスタートしたNHK連続テレビ小説「エール」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)も最終回(第120話、11月27日)まで残り2話。主人公の作曲家・古山裕一の激動の人生を体現してきた俳優の窪田正孝(32)が最終回目前、コロナ禍による約2カ月半の休止を挟むドラマさながらの“激動”の撮影を振り返った。「共演者、スタッフの皆さんとの素敵な出会いを頂き、今後の財産になりました」という13カ月の長丁場から生まれた数々の名シーン“秘話”も明かした。

 朝ドラ通算102作目。男性主演は2014年後期「マッサン」の玉山鉄二(40)以来、約6年ぶり。モデルは全国高等学校野球選手権大会の歌「栄冠は君に輝く」などで知られ、昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而(こせき・ゆうじ)氏(1909―1989)と、妻で歌手としても活躍した金子(きんこ)氏。昭和という激動の時代を舞台に、人々の心に寄り添う曲の数々を生み出した作曲家・古山裕一(窪田)と妻・音(二階堂ふみ)の夫婦愛を描く。

 窪田は昨年9月17日にクランクインし、10月29日に全撮影を終了。同局を通じ「まだ終わった気がしないのですが、これから寂しさが来るのかな」と心境を明かした。今月10日には「ファン感謝祭inふくしま」公開収録のため、中村蒼(29)山崎育三郎(34)と“福島三羽ガラス”として福島を初訪問。「撮影が再開した後はずっと立て込んでいて、本当に一気に撮った感じだったので、クランクアップした後はまず、大量の台本、指揮やオルガン、ハーモニカなどを指導いただいた時のたまっていた資料の整理とか身の回りの片付けから始めました。髪も切ったり、体のケアを一度したりしました」と区切りをつけたものの「正直、まだ終わった実感があまり湧かず、どこか続いている気持ちがあるんですよね。(福島で)古関裕而さんのお墓に無事に終われたことを報告できてホッとしました。これからだんだんと実感していくんですかね(笑)」

 「選ぶのは難しいと思いますが…」と質問を切り出すと、窪田は内容を察知し「やめて」と笑いを誘いながら「毎回毎回、名シーンが生まれたので、本当に悩みますが、夫婦としては音に赤ちゃんができて、歌手になるという音の夢を裕一が預かるところですかね」と第50話(6月5日)を最も印象に残るシーンの1つに挙げた。

 第50話は、音は環(柴咲コウ)から、おなかの子どもが危険なことになっても舞台に立つプロとしての覚悟があるか問われ、オペラ「椿姫」の舞台に立つことを断念せざるを得ないのか思い悩む。つわりのため体調が優れない音に、裕一は体が一番だと稽古を休むことを勧めるが、ある日、音が家から姿を消した。裕一はあちこち探し回った末、音を見つけ…という展開。

 音は1人、音楽学校の薄暗いで歌の練習。声はうまく出ない。裕一が作曲家として声楽家の音に「君は舞台に出るべきじゃない。息が続かないのは致命的だ」と伝えると、音は裕一にビンタ。「分かっとる。子どもができたのは、うれしい。でも、何で今?って時々思ってしまう自分が嫌で。この子に会いたい。歌も諦めたくない」と泣きじゃくった。裕一は「その夢、僕に預けてくれないか?君がもう一度、夢に向き合える日がちゃんと来るまで、僕がその夢、預かって大事に育てるから。君の夢は、僕の夢でもある。その代わり、君にもいつか僕の夢を叶えてほしい。僕の作った曲で、君が大きな舞台で歌う。音は何一つ、諦める必要ないから。そのために、僕いるんだから」――。

 約5分半に及んだシーンは一発撮り。「だから、特に彼女の気持ちの高ぶりを肌で感じました。一発勝負にかける思い。スタッフさんも含め、みんなが1つの方向を向いていた瞬間だったと思います。このシーンがあったからこそ、戦後に『ラ・ボエーム』を降板した音が慈善音楽会で裕一の作った『蒼き空へ』を歌うところ(第105話、11月6日)に結実しました」

 教会のステージ。裕一は「僕が音楽家として続けてこられたのは、彼女のおかげです。掛け替えのない私の恩人です」と音を観客に紹介した。「裕一と音は、お互いにないものをちゃんと補い合っている関係。それが『エール』の一番の魅力だと本当に思いましたね」

 そして、何と言っても、その大きな反響から異例の一挙再放送もされた第18週「戦場の歌」(第86話~第90話、10月12~16日)。“朝ドラの域を超えた”生々しい戦場描写により、インパール作戦など戦争の悲惨を伝えた。

 リアルな戦場シーンはもちろん、チーフ演出の吉田照幸監督(50)が絶賛したのは第90話、「僕は音楽が憎い」の台詞回しだった。

 一足先に1人、故郷・福島から東京に戻った裕一は、かつて音の音楽教室の生徒で予科練に合格した弘哉(山時聡真)も戦死したことを母・トキコ(徳永えり)から告げられ、さらにショックを受ける。福島から戻った音と華(根本真陽)も呆然。弘哉に恋心を抱いていた華は泣きじゃくった。

 裕一「(廊下に座り込み)華…弘哉君が亡くなった。僕のせいだ。僕のせい」

 音「あなたのせいじゃない。あなたは自分の役目を果たしただけです」

 裕一「役目…?音楽で人を戦争に駆り立てることが僕の役目か?若い人の命を奪うことが僕の役目なのか?音…僕は音楽が憎い」

 語り(津田健次郎)「この日以来、裕一は曲を書かなくなりました」

 吉田監督は「『僕は音楽が憎い』という裕一の台詞は何度も書き直しました。窪田さんがつぶやくように表現してくれたのが、非常に印象に残りました。台本だけ読めば、叫ぶように言ってもおかしくない台詞。『ああ、この人はここまで追い詰められていたんだ』。凄いと思いました。あそこの一連のシーンは(二階堂の顔が見えるように)廊下の奥側から撮ったんですが、『僕は音楽が憎い』のカットだけ逆側(二階堂の背中越し)から窪田さんの横顔を撮りました」と明かした。

 窪田は「『音楽が憎い』とまで言う裕一の精神状態は一体どういうものなのかと思いました。帰ってきた華を認識した時、『この世から消えてなくなりたい』くらいの感覚になったことは、記憶としてあります。人が死ぬということについて、裕一は頭で分かっているようでいて、全然分かっていなかった。それが目の前で藤堂先生(森山直太朗)を亡くした後は、死の知らせを受けるだけで、すべてが自分にのし掛かってくる。自分の信じていたものが全くもって真逆、天地がひっくり返った感覚だったと思います」と振り返った。

 クランクアップ時の談話にあった「今後の財産」。今作は“受けの芝居”が多く「周りの皆さんに“動”として自由にお芝居していただいたので、僕は“静”として生きられたと思います。さまざまなキャストを迎えては送り出すということをしてきました。撮影は1日だけという方をはじめ、いろいろな人が怒涛のように自分の前を通り過ぎていく感覚が続いて、そういう役を1年間、演じさせていただけたことが僕の強みになったかな、と」と説明した。

 「“動”としてアウトプットするのと違って“受けて受けて受けて”という芝居は、自分が苦しくなってくるんですよね。もらうばかりなので。今回は、そのキャパシティーを広げていただいた気がします。『今度、あの人はどういう芝居をしてくるのかな?このシーンは、監督はどういうふうに考えているのかな?』と監督と同じ視点から客観的に俯瞰したり。そういう部分を鍛えられたのは、自分にとって新しい武器になると思います。だから、歴代の朝ドラヒロインの皆さんが大変だったとおっしゃるのは“静”だけじゃなく“動”の部分も担わないといけないからだと、1年間やってみて、よく分かりました。『エール』の強みは裕一と音、2人が補い合えたことだと思います」

 「戦争のシーンもつらい部分はありましたけど、やっぱり新型コロナウイルスの影響で撮影の流れが止まったこと、そしてスタジオにこもりっきりになるほど撮影が続いたことは正直つらかったです。だから、ロケがとにかく楽しくて(笑)」と率直な心境も吐露。「そして、僕ら役者と近い場所にいたスタッフの皆さんとお菓子の話をしたり健康器具で癒やされたりするのが心のケアになったというか。だから最後までできたというのはあります」と感謝した。

 「やり切ったと思う一方で、唯一の心残りは、このコロナ禍で1年も撮影していたのに打ち上げができていないことです。“福島三羽ガラス”の鉄男役の中村蒼さん、久志役の山崎育三郎さん、そして藤堂先生役の森山直太朗さんとも、コロナが落ち着いたら『エール男子会しようぜ』と盛り上がっているところなんです。それから、福島にある古関さんゆかりの信夫山(しのぶやま)の散策もしたいなと計画しているんです。是非これらを実現したいですね。今は、そんな日が来るのを楽しみにしています」

 最終回は、窪田が司会を務める異例のコンサート。山崎、古川雄大(33)堀内敬子(49)吉原光夫(42)井上希美(28)小南満佑子(24)ら本職のミュージカル俳優を起用し、音楽の力を描いた今作らしく、全編15分にわたるオールキャストの歌声で“最後のエール”を日本中に届ける。

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