松山ケンイチが捉えたひきこもりの一般性

[ 2020年11月22日 09:30 ]

NHKのドラマ「こもりびと」で、10年にわたってひきこもる主人公を演じる松山ケンイチ(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】ひきこもりは、自分には全く関係のない問題だと思っていた。ところが、NHKのドラマ「こもりびと」(22日後9・00)の試写を見て、状況によっては自分にも起こりえた問題なのだと痛感した。

 ドラマでは松山ケンイチが10年にわたってひきこもる40歳の主人公を演じ、武田鉄矢がその父親を演じている。元教師の父親は極めて厳格で、息子の進学や就職、私生活など、あらゆることに文句をつける。その言い方がにべもない。ほとんど人格否定だ。この立場に置かれたら、誰もが追い詰められるだろう。ひきこもる可能性だって十分にある。

 松山ケンイチはこう話す。「武田さんが演じた父親は、自分の息子を立派にさせたいという思いが強かった。これは今の親たちにも言えることで、学校や習い事で何か付加価値をつけようとするところがある。親はそれが必要だと思っているが、子供はそれを理解しているわけではない。そのギャップがある。今の子供たちを見ていても『みんな、我慢してやっているのだろうな』と思うところもある」。自身も3児の父であるだけに切実だ。

 ドラマでは病気で余命わずかな父親が問題を解決しようと動きだす。しかし、10年にわたって会話が成立していないため、その糸口をなかなか見いだせない。やがて、息子がツイッターを利用していることを知り、他人になりすまして交流を試みる。

 松山は「武田さんは自分の価値観を持っている人で、堅いイメージがある。それを武田さん自身も分かっていてドラマでちゃんと表現している感じがした。最後の方に、線路にかかる橋の上で話す場面がある。僕はあそこに向けてやっていたところがあるし、武田さんもそうだったと思う。別々の場所から山に登って最後にようやく会えた感じ」と振り返る。

 ドラマでは父と子が会話を成立させるに至る。ところが、実はそれで問題が解決するわけではない。この主人公の場合、10年にわたって社会から遠ざかってしまっている。大変なブランクだ。そこからあらためて自立して働いていくことはそう簡単ではない。

 松山は「その後、どんな選択をするのか、僕にも分からない。ただ、死ぬまでひきこもるという選択肢もあると思う。いまの社会は多様性を認めようとしつつあるから、ひきこもりもその一つになるかもしれない。ひきこもっていても、できる仕事はある」と語る。

 このドラマは、家族の在り方についても深く考えさせられる。親は子にどう向き合うべきなのか。松山が演じた主人公は、父親が違う考えを持っていれば、間違いなく、ひきこもることはなかった。

 松山は「自分も親だから、子供に良かれと思って言うことがある。でも、子供たちが考えていることは全然違う。僕が無駄だと思ったことでも、子供は無駄だと思わずに大事にしている場合もある。親は黙って子供を見られるくらい大きくならなくちゃいけない。本当は自分に自信がないから子供に言うんじゃないかとも思う。ドカッと構えて『どんな人間になってもいい』と言えるくらいの親になりたい」と胸の内を明かした。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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