備忘録2

[ 2020年8月12日 08:00 ]

6月4日の棋聖戦決勝トーナメント決勝で永瀬拓矢2冠を下し、会見で話をする藤井聡太七段
Photo By スポニチ

 【我満晴朗のこう見えても新人類】

☆6月4日 対永瀬拓矢2冠(第91期棋聖戦決勝トーナメント決勝=東京・将棋会館)

 藤井聡太七段(当時)は前局から中1日という過密日程。だがその後のさらなるハードスケジュールを考慮すると、この時点ではまだまだ余裕しゃくしゃくだっただろう。結果は100手で後手・藤井の勝利。

 この対局で注目されたのは藤井が史上最年少タイトル戦出場を決めたという快挙だが、それとは別にトピックとなったのが対局中のマスク外しだった。

 午前10時の開始時から両者は律義にマスクを着用しながら差し手を進めていた。感染リスクを避けるためには当然だろう。だが対局も終盤に入りつつあった午後5時18分、藤井が先にマスクを外す。おおっ、こ、これは…。

 なにしろ勝負手とおぼしき3筋の銀を盤上に放った直後だった。「シドニー五輪の高橋尚子じゃないですかね?」と思わずつぶやいたら、何人かの同業記者も反応してくれた。中継局のコメント欄にも同様の声が寄せられたという。レース終盤の勝負どころでサングラスをかなぐり捨てるとほぼ同時にスパートをかけ、並み居るライバルを蹴散らしてゴールに向かったあの名場面だ(詳細はもっと違っていたかも)。

 しかし、よく考えると将棋では有効手かどうか微妙なところだ。マスクを外したら勝負手と相手に悟られて強固な応手を返されてしまう可能性もある。よほどの自信がなければできないよね、という雑談にふけった記憶がある。

 結論から言うと永瀬はその応手を誤ったのだから当たらずとも遠からずといったところか。

 実は永瀬も終盤にマスクを脱ぎ捨てていたのだが、その行為に至るまでは慎重を期しており、片方のひもを外して少しずつ水分を補給するなど、ずいぶん窮屈な姿がモニターに映し出されていた。

 現在は対局中にマスクを外す行為が一般化している。何しろ会話を交わすわけではないから感染リスクは極端に少ない。むしろ敗戦を覚悟して駒を投じる数手前にマスクを再装着する棋士の行為がデフォルトになった。

 おかげで最近は終局のタイミングがかなり正確に把握できる。あぐらから正座に換わり、飲み物を口にし、上着に袖を通し、そしてマスクを着ける…以上が投了のサインだ。ワンテンポ遅れて対戦相手も同じように居住まいを正し、マスク姿になる。

 これが将棋界のニューノーマルだろうか。(専門委員)

続きを表示

2020年8月12日のニュース