藤井七段を強くした昨秋王将Lの苦い体験 観戦記者の関口武史氏、永瀬2冠との激戦は「今年の名局賞候補」

[ 2020年6月7日 05:30 ]

初手を指す永瀬2冠(左)。右は藤井七段(代表撮影・日本将棋連盟)
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 高校生棋士、藤井聡太七段(17)が史上最年少でタイトル戦に挑む第91期棋聖戦が8日に開幕する。「このビッグニュースの背景は昨年秋の王将リーグ抜きには語れない」と言うのは、指導棋士五段でスポニチ本紙王将戦観戦記者の関口武史氏。永瀬拓矢2冠(27)を破った一戦は「今年の名局賞候補にもなり得る」という。

 新型コロナの影響で今期のタイトル戦はタイトな日程で再編成された。棋聖戦もそのあおりを受け、準決勝から中1日という異例の日程で迎えた挑戦者決定戦だった。

 藤井―永瀬戦の戦型は相掛かりと呼ばれる力戦調の将棋。昨今のAIの影響により序盤戦術が整備されている中、この戦型は未開拓な分野が広がっている。二十数手で前例と別れ、午前中から両者の読みの精度が問われる激しい展開となった。一つのミスが勝敗に直結する足を止めての打ち合い。しかし藤井は永瀬の猛攻をしっかりと見切り、互角のまま中盤戦へ進んだ。

 穏やかに見える中盤だったが、永瀬の体力は藤井の非凡な手の積み重ねにより着実に減退。そして終盤戦、永瀬のほんのわずかなミスをきっかけに藤井はあっさり寄せ切った。その正確かつ素早い収束は藤井の真骨頂。100手の中に詰まった濃密な内容に、早くも「名局賞」候補との声も出ている。

 昨年秋の王将リーグ。一流棋士との対局を乗り越え、挑戦者決定戦では勝勢から頓死という劇的な展開も体験。このリーグ戦で藤井が経験し得たものは計り知れない。持ち前の正確さは精度を上げ、着想の柔軟性は飛躍し、何より勝利への執念が醸成されたように感じる。師匠の杉本昌隆八段も「昨年秋の経験が藤井を強くした」と語っている。3冠の渡辺明棋聖(36)との5番勝負はさらなる名局必至の歴史に残る戦いとなるだろう。

 ≪語り継がれる数々のドラマ≫将棋界の長い歴史の中で語り継がれる名局は数多く、大山康晴・升田幸三の「高野山の決戦」、中原誠・米長邦雄の名人戦で生まれた歴史に残る妙手「▲5七銀」など枚挙にいとまがない。
 名局は棋士たちが血も汗も魂も削りあった対局から生まれ、だからこそファンに感動を与える。近年だと08年の渡辺竜王対羽生名人の竜王戦第4局。3連敗でカド番に追い込まれた渡辺竜王が、この対局でも絶体絶命となった中「打ち歩詰め」という反則ルールのおかげで命拾いし、その後大逆転勝ちした衝撃の一戦。渡辺竜王はこの勝利から4連勝して永世竜王を獲得するという、劇的なドラマの布石となった。

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