「スカーレット」最終章へ “ヤマ場”7年飛ばしたワケ 喜美子の陶芸家としての成功は描かず「潔く」

[ 2020年3月8日 09:00 ]

連続テレビ小説「スカーレット」第105話。崩れた穴から激しく噴き出す炎に驚く喜美子(戸田恵梨香、左)とマツ(富田靖子)(C)NHK
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 女優の戸田恵梨香(31)がヒロイン・川原喜美子を演じるNHK連続テレビ小説「スカーレット」(月~土曜前8・00)は残り3週。白血病を発症した喜美子の長男・武志(伊藤健太郎)の闘病が描かれ、喜美子たち家族にとっても、視聴者にとっても試練の展開となる。派手さこそないものの、キャラクターの機微を生々しく描き出している脚本家・水橋文美江氏(56)は今月1日放送のNHK FM「岡田惠和 今宵、ロックバーで~ドラマな人々の音楽談議~」(隔週日曜後6・00)にゲスト出演。“執筆秘話”を明かした。

 朝ドラ通算101作目。タイトルの「スカーレット」とは「緋色」のこと。フジテレビ「夏子の酒」「妹よ」「みにくいアヒルの子」、日本テレビ 「ホタルノヒカリ」などで知られる水橋氏が朝ドラに初挑戦したオリジナル作品。“焼き物の里”滋賀・信楽を舞台に、女性陶芸家の草分けとして歩み始める大阪生まれのヒロイン・川原喜美子の波乱万丈の生涯を描く。

 同じ陶芸家ゆえに、お互い譲れぬ一線があり、結局は離婚に至った喜美子と八郎(松下洸平)。「ちゅらさん」(2001年前期)「おひさま」(11年前期)「ひよっこ」(17年前期)と朝ドラ3作を手掛けた脚本家の岡田惠和氏(61)は「『スカーレット』は『わっ、そこ、きついところに入っていくなぁ』という状況が結構多いじゃないですか。(同業者夫婦の苦悩や意識の差は)凄く新鮮。『(水橋さんは)逃げないなぁ』と思いました。それが水橋さんにとってのある種のリアルだし、描きたいことなんだと思いますが、勇気は要りましたか?」と水を向けた。

 水橋氏は「チーフ演出の中島(由貴)さんがリアリティーを追求する人で。朝ドラのヒロインだからと言って、チヤホヤしてはいけない、何でも物事がうまくいっちゃいけないと(笑)。それほど厳しくしたつもりはなかったんですが、今までの朝ドラに比べるとき、厳しいのかもしれませんね」

 さらに、岡田氏が「時間の経過の飛ばし方も、凄く気持ちよかった」と絶賛。水橋氏は、喜美子が7回目にしてついに穴窯に初成功した後、陶芸家としての成功は詳細に描かず(「灰と土が反応してできる自然釉の作品は陶芸家・川原喜美子の代名詞となりました」のナレーション)、1978年(昭53)に一気に時間を飛ばした第105話(2月5日)について語った。“ヤマ場”の1つと思われただけに「もっと喜美子の(陶芸家としての)成功が見たい」という視聴者の声も出た場面だった。

 「7年バーンと飛ばしたんですが、あそこは意図的です。喜美子にとっての成功は、陶芸家として有名になることじゃなく、穴窯で自然釉の作品を作ること。ゴールは(穴窯に初成功して)作品ができた瞬間なんです。その後(の陶芸家として有名になっていく姿)を描くと、ゴールが見えなくなっちゃうと思ったので、飛んだんです。その台本を渡すと、(制作統括のチーフプロデューサー)内田(ゆき)さんもOKしてくれて。プロデューサーによっては『もうちょっと、ここをやりましょう』と言う人もいると思うんですが」

 岡田氏が「考え方によっては(喜美子が陶芸家として有名になっていく姿は)いくらでもやりようはありますよね。楽しいことが書けたりもしますし」と挟むと、水橋氏は「喜美子にとっての成功は、そこじゃないんで。陶芸家として売れっ子になるかどうかは関係なく(穴窯で)作品ができるかどうか。『完成しました、終わり』という話。そこは潔く」と狙いを説明した。

 終盤に向けては「最終的には『生きていくということ』を描いたつもりなので、それがうまく伝わるといいなと思います」と願った。

 「スカーレット」が参考にしたのは、信楽焼の女性陶芸家の草分けとなった女性陶芸家・神山(こうやま)清子氏(83)の人生。長男の賢一さんが29歳の時、白血病に倒れ、神山氏は骨髄バンクの立ち上げにも尽力した。

 水橋氏は2月29日、自身のインスタグラムを更新。「(喜美子が)陶芸家の道を歩きだしたことを表現するためには、どなたかの作品をお借りしなければなりません。あちこちから適当にというわけにもいきません。喜美子の作品はすべて陶芸家の神山清子先生からお借りすることになりました。喜美子の作品イコール神山清子先生の作品です。神山清子先生の最愛の息子さんは白血病と闘われたという経緯があります。お借りした作品ひとつひとつに、息子さんへの深い愛情とその時々の思い出、いとしい出来事が込められていることを知りました。それら大切な作品をお借りして喜美子の作品と謳っているからには、その思いに全く触れずにいることは同じ物作りの端くれとして敬意に欠けることではなかろうか。チーフ演出の中島さん、内田P(プロデューサー)と十分に熟考を重ね、できる限りの配慮を胸に、私は覚悟を決めました。第22週からは喜美子の人生の最終章『生きるということ』を描いていきます」とシビアな展開を選んだ理由を明かした。

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2020年3月8日のニュース