佐々木蔵之介 思い立ったら即旅へ 訪れた国は42以上 自分見つめ直し役者としての活力源に

[ 2019年6月4日 10:30 ]

愛用のスーツケースとともにポーズを取る佐々木蔵之介(撮影・井上 徹)
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 【夢中論】俳優の佐々木蔵之介(51)は「隙あらば」旅に出る。国内外を問わず、思い立ったら目的の場所だけを決めて即出発。風の吹くまま、気の向くまま…。海外では幾度となくトラブルに見舞われたが、それさえも受け入れ笑える思い出に変える。誰も自分のことを知らない地で自分を見つめ直すことが、役者としての活力源となっているのだ。

 「自分は休みの日に家にいてもダラダラするだけで建設的なことは何もしないんですよ。自分が変わらないから、無理やり環境を変えようとしているんです」。佐々木は、旅に出始めた理由をこう明かす。これは上京した頃からの慣習で、最初は新宿からの高速バス、次に東京駅に向かい新幹線、そして羽田に行って飛行機と年齢を経るに従って行動範囲を拡大していった。駆け出しの頃、上野発の夜行列車で、雪の中の青森駅に降り立ったこともある。

 「北へ向かう人の群れは誰も無口じゃなかった。駅の案内所で泊まれるホテルを聞いたら、その季節に泊まる物好きはいないからホテルが休業しているんです。奥入瀬渓流にあるいいホテルが半額くらいで泊まれるということだったので行きましたが、迎えのバスには僕一人。もちろん渓流には行けないし、雪が深くて一歩外に出るのも怖かった。飯をどうしたのかも忘れるくらいでしたけれど、温泉では初めてサルを見ました。旅の記憶って、そんなのばっかりですよ」

 今では海外に足を延ばすことも多く、翌日からオフの場合、当日の撮影中に目的地を決めチケットだけ予約してその日の夜に出国。休み明け当日の早朝に帰国し、そのまま現場に向かうこともある。

 「だいたいギリギリを調べます。機内泊の方が効率がいいので、仕事が何時に終わって羽田や成田まで行く時間と、向こうを夜に出て日本に朝何時に着けばという逆算でけっこうきわどいこともやっています。だから多分、事務所はヒヤヒヤですよ」

 綿密な計画は立てず、頼るのは嗅覚のみ。ロストバゲージの危機や、搭乗便がアナウンスもなしに出発が早まり目の前で離陸してしまうなど珍道中のエピソードには事欠かないが、置かれた状況を受け入れることで寛容な心も芽生える。

 「海外で不都合が起きるのが好きなわけではないけれど、日本では安定して暮らせるのに言葉も風習も違うから面白いのかなと。アクシデントが起こっている時はきついけれど、後から考えると笑えるようになっています。僕らの常識が通用しないということも笑えるんですよ」

 訪れた土地で、地元の酒をたしなむのも楽しみのひとつだが、これにも失敗談がある。

 「沖縄で飲むオリオンビールや泡盛がうまいように、現地でローカルなものを飲まなければと思っています。でもインドで、サンダー・ボルトというビールがけっこう強いよと言われて飲んだら、普通2杯くらいでは倒れないんですけれど、メチルが入ってたんかなあと思うくらいで、バターンって。すごかった。本当に死ななくて良かった。そういういろいろな事故も面白いんやな」

 仕事も含め訪れた国は、以前に数えた時点で42。当然、現在ではそれ以上になっており、一度行ったことがある場所を再訪することも増えた。その中でも、ウクライナが特に印象深い。

 「日本にガイドブックがないですからね。ロシアの中の数ページだけで、地図もいいかげんなもんですよ。多分、観光客を呼ぼうという気が全然ないので英語表示もない。ずっとロシア語を見ていましたね。面白かったのは、ウクライナの地下鉄が都営大江戸線の3倍くらい深い。後で調べたら世界で一番深い駅やったみたいで、駅もそれぞれ違うけれどすごく金をかけて造ったみたいでメチャメチャ豪華なんですよ」

 “相棒”のスーツケースは傷だらけで凹凸も目立つ。壊れては修理を繰り返し付き合いは17年ほどになる。期間や用途に応じて複数所有しており「苦労した仲間はいっぱいいますが、こいつが一番負傷しているし、行方不明になった率も多いですね」と愛着も深い。興味のある国は尽きず、まだまだ活躍してもらうつもりだ。

 「中央アジアのキルギスとか、イスラム教の青い建物があるような所に行きたいですね。後はどうやろなあ、グリーンランドとかね。アイスランドで温泉にも入りたいなぁとも思うし、行きたい所はいっぱいあります」

 あまり役は引きずらないタイプだと言うが、つかの間の旅に出ることによってさらにスイッチを切り替え、常に自分自身を磨き続けているのだろう。

 ≪出演映画「空母いぶき」大ヒット公開中≫佐々木が出演する映画「空母いぶき」(監督若松節朗)が公開中で、興行収入10億円突破は確実のヒットとなっている。国籍不明の武装集団からの攻撃により、戦後初の防衛出動が下令された空母いぶきの24時間の攻防を描くアクション大作。佐々木はいぶきの副長・新波役で「オファーを受けた時にこれは問題作になるぞという感じはしましたが、すべての役者、スタッフさんが覚悟を持って向かった映画だという気はします」と振り返る。そして「自衛官だけでなく政府、マスコミ、そしてコンビニの店長までが平和のために何がベストかを考える、おしつけがましくないエンターテインメントとして出来上がってホッとしています。今、平和であることの大切さはかみしめましたね」と話した。

 ◆佐々木 蔵之介(ささき・くらのすけ)1968年(昭43)2月4日生まれ、京都府出身の51歳。大学在学中から劇団「惑星ピスタチオ」で看板俳優として活躍。2000年、NHK朝の連続テレビ小説「オードリー」で注目され、06年「間宮兄弟」で映画初主演。05年にはプロデュースする演劇ユニット「Team申(さる)」を旗揚げ。主な映画主演作に「超高速!参勤交代」「破門 ふたりのヤクビョーガミ」「嘘(うそ)八百」などがある。

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