白石和彌監督が選んだ平成の日本映画10本 「愛の新世界」で広がった新世界

[ 2019年4月25日 10:00 ]

平成の日本映画史を振り返る白石和彌監督。印象に残るユニークな10本を選出した
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 【平成の10大○○ 5】「彼女がその名を知らない鳥たち」「孤狼の血」などでブルーリボン賞監督賞を2017、18年と連覇した白石和彌監督(44)に日本映画10本を選んでもらった。大作あり、愛すべき小品あり。19年も「麻雀放浪記2020」など話題作が続く俊英が影響を受けた興味深いセレクションとなった。

 北野武監督(72)の「その男、凶暴につき」が平成元年(1989年)に公開されてます。快進撃は平成とともに始まったんですね。

 宮崎駿監督(78)の「魔女の宅急便」も元年の公開。その後のアニメーション映画の隆盛を予感させた作品でした。大映社長だった徳間康快さんや角川映画が流れをつくり、メディアミックスしながら宣伝の方法も大きく変わっていきました。

 日活ロマンポルノが終わったのが88年ごろでしょうか。その後、ミニシアターの隆盛と衰退があり、駅前から大劇場も消えた。そして全国津々浦々にシネコンが進出し、配信も始まった。

 平成とひと言で言っても30年もあるんですね。そんな中から10本を選ぶのは大変ですが、個人的に高橋伴明監督(69)の「愛の新世界」をまず挙げたい。映画監督を目指し始めた頃に見て衝撃を受けました。師匠若松孝二監督の作品では「エンドレス・ワルツ」を入れます。これを見て助監督に就きました。

 90年代半ばは役所広司さん(63)の時代でしたね。平成8年(96年)に「Shall we ダンス?」「眠る男」「シャブ極道」、翌9年が「バウンス ko GALS」「うなぎ」「失楽園」「CURE」と、もう笑っちゃうくらいの充実期。傑作ぞろいですが、とりわけ「うなぎ」は最高でした。

 平成ガメラシリーズ3部作にも興奮したものです。特撮の樋口真嗣監督(53)が日本の特撮技術を改めて世に示した作品でした。あの映像には度肝を抜かれたし「まだやれることがあるんだ」と気付かせてもくれた。1作目「ガメラ 大怪獣空中決戦」の衝撃は忘れられません。令和に復活してほしい。やらせてもらえるならやりたいです!

 広末涼子さん(38)が主演した「20世紀ノスタルジア」は今で言うフェイクドキュメンタリーというか、自撮りのはしりのような作品でしたね。原将人監督(68)の感性は斬新でした。行定勲監督(50)の「きょうのできごと a day on the planet」は僕が助監督に入った思い出深い一本。犬童一心監督(58)の「メゾン・ド・ヒミコ」、沖田修一監督(41)の「横道世之介」も外せません。

 昨年一番良いなあと思ったのが山田孝之さん(35)がプロデュースした山下敦弘監督(42)の「ハード・コア」。2000年代に入って、山下監督や熊切和嘉監督(44)、石井裕也監督(35)ら大阪芸大の卒業生たちの活躍が目立ってますね。最後は崔洋一監督(69)の「月はどっちに出ている」で締めます。大好きな一本です。(映画監督)

 ≪最高のスキャンダリズム「十階のモスキート」≫崔監督の「十階のモスキート」に主演した内田裕也さんが亡くなられましたね。滝田洋二郎監督(63)の「コミック雑誌なんかいらない!」もそうですが、裕也さんが監督を“つくり”ながらギラギラした映画を世に出したのは昭和の終わり頃でした。「コミック…」のイッちゃってる感は凄かった。世相も絡め、平成にこれを超えたスキャンダリズムの映画は出なかった。監督をつくっていく俳優さんが令和に現れてほしいですね。

 【白石和彌監督が選んだ平成の日本映画10本】(公開順、芸名は当時)

 ◆「月はどっちに出ている」平成5年(1993)11月6日公開
 在日コリアンのタクシー運転手とフィリピン女性との恋模様。岸谷五朗、ルビー・モレノ主演

 ◆「愛の新世界」平成6年(1994)12月17日公開
 SMクラブの女王様として働きながら劇団女優の道を歩む女性らの姿を活写した青春映画。鈴木砂羽が熱演

 ◆「ガメラ 大怪獣空中決戦」平成7年(1995)3月11日公開
 ガメラ誕生30周年記念作として大映が製作。福岡を舞台にガメラとギャオスが壮絶な戦い

 ◆「エンドレス・ワルツ」平成7年(1995)10月7日公開
 稲葉真弓の同名小説の映画化。実在したサックス奏者と元女優で作家の愛憎劇。町田町蔵と広田玲央名が熱演

 ◆「うなぎ」平成9年(1997)5月24日公開
 吉村昭の「闇にひらめく」が原作。妻殺しを背負い、うなぎにだけ心を開く中年男と自殺未遂の女の交流

 ◆「20世紀ノスタルジア」平成9年(1997)7月26日公開
 映画作りを通して高校生の男女に芽生えた恋模様を描いたファンタジー。広末涼子、圓島(まるしま)努が主演

 ◆「きょうのできごと a day on the planet」平成16年(2004)3月20日公開
 柴崎友香の小説が原作。大学生たちの1日をそれぞれのエピソードで紡ぐ。田中麗奈、妻夫木聡ら出演

 ◆「メゾン・ド・ヒミコ」平成17年(2005)8月27日公開
 ゲイのための老人ホームで暮らす人々と家族の物語。オダギリジョー、柴咲コウら出演

 ◆「横道世之介」平成25年(2013)2月23日公開
 長崎から上京した青年の青春。吉田修一の小説を映画化。高良健吾、吉高由里子ら出演

 ◆「ハード・コア」平成30年(2018)11月23日公開
 人間とロボットの不思議な友情。山田孝之と佐藤健が兄弟役で主演。山田が自らプロデュースも

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