「渋井直人の休日」名脇役・光石研“役作りしない役作り”引き出しの多さ絶賛も「まだまだ」理想の演技は?

[ 2019年1月31日 11:00 ]

光石研インタビュー(上)

テレビ東京の木ドラ25「デザイナー 渋井直人の休日」に主演する名脇役・光石研(C)渋谷直角/宝島社(C)「デザイナー 渋井直人の休日」製作委員会
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 名脇役の光石研(57)がテレビ東京の木ドラ25「デザイナー 渋井直人の休日」(木曜深夜1・00)に主演し、中年男の悲哀をコミカルに体現している。俳優生活40年にして連続ドラマ単独初主演となったが「いつもと変わらずにいたい」と肩肘張らず。昨年も17作品に出演したが、何色にでも染まる存在感を生む「役作りをしない役作り」、そして、その先に目指す理想の芝居を明かした。

 原作は映画化もされた「奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール」などで知られる漫画家・渋谷直角氏の同名コミック。おしゃれな日常を送る中、次々に現れる女性たちに右往左往する52歳独身デザイナー・渋井直人(光石)の恋模様をコミカルに描く。

 第1話(17日)、主人公は美大生・木村ひる美(川栄李奈)が自分に好意を持っていると知り、浮つく。第2話(24日)は仕事仲間の編集者・高田(夏帆)を自宅に招き、手料理を振る舞うことに…。31日放送の第3話のヒロインは以前、アルバムジャケットをデザインしたシンガー・ソングライターの京川夢子(池田エライザ)。光石も名を連ねたテレビ東京「バイプレイヤーズ」は“おじさん萌え”する視聴者が続出したが、今回はそのかわいらしさに拍車がかかっている。

 脚本は「バイプレイヤーズ」のメーンライターで、第1弾「〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」(2017年1月期)で光石の名台詞「テレ東だろ?」を生み出した、ふじきみつ彦氏。演出は映画「マザーウォーター」「東京オアシス」で女優の小林聡美(53)とタッグを組んだ松本佳奈監督(今回は脚本も兼任)、西川美和監督の映画「夢売るふたり」「永い言い訳」の助監督を務め、今年5月公開の映画「うちの執事が言うことには」のメガホンを執った久万真路監督、テレ東「電影少女―VIDEO GIRL AI 2018―-」「恋のツキ」などの桑島憲司監督。

 主演オファーに対する率直な心境を尋ねると、光石は「それはもう、ものすごくうれしかったです。ただ、僕なんかで務まるのかなと。平成最後に、テレ東さんも思い切ったなと思いました」と苦笑い。それでも「スタッフの皆さんが本当に力を入れてくださり、細かいところまで凝った世界観を作ってくださっているので、僕はセリフさえ覚えて、身一つで現場に行き、風邪さえひかなければいいという安心感があります。キャスト、スタッフ、みんなで楽しみながら大笑いしながら撮影が進んでいるので、本当に毎日心地のいい現場。『僕なんかで務めるのか』という不安は全然なく、何の心配もなく毎日現場に通っております」と充実ぶりを語った。

 昨年も映画6本、テレビドラマ11本に出演し、大忙し。変幻自在の演技で、今やオファーが絶えない名脇役だが、連続ドラマ単独主演は俳優生活40年にして初。しかし、気負いはなく「主演だと、いつもより撮影日数やシーン数が多かったり、肉体的なコントロールも必要になったりしますが、いつもと変わらずにいたいと思っています」と自然体を貫く。

 主人公が通う古書店兼カフェ「ピータードッグ」の店主役を演じる俳優の池松壮亮(28)は「俳優を志した頃から現在に至るまで、尊敬する俳優は?と聞かれると光石研さんと答えていました。同郷の福岡で青春時代を過ごし、光石さんを追うように上京してからというもの、プライベートでお会いしたことはありませんが、自分にとっての東京の師であり父だと、心に思っております。光石さんが主役をされるというのにオファーを受けないなんて、何のために俳優を続けてきたのか僕には分かりません」とコメント。共演者が「光石さんの40周年のために」「光石さんの主演作のために」と口々に語り、今作に参加。人望が厚い。

 「特に池松君は、彼が福岡にいる頃からよく知っていて『光石チルドレンと言うように』と冗談で言っていたんですが、こんなにビッグな俳優になるとは」と笑いながら「みんなリップサービスだと思うんですが、本当にありがたいことです」と周囲の盛り上げに感謝した。

 光石へのインタビューは2017年1月期のテレビ東京「バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」、18年10月公開の映画「教誨師(きょうかいし)」に続き、3回目。「バイプレイヤーズ」は本人役ということもあったが、「教誨師」は気のいいヤクザの組長で死刑囚役を演じたものの「ヤクザの親分だから、死刑囚だから、どうというよりも、その(役の)人がちゃんとその場所にいればいい、ということを考えていました」と存在感を重視し、いわゆる役作りについては多くを語らなかった。

 実際、役作りはしないタイプ。その理由を尋ねると、こんなエピソードを明かした。

 ある単発ドラマで近未来の囚人役を演じた時。無精ひげを生やしたら、それらしく見えると、撮影初日に臨んだが、囚人役11人のうち7人が無精ひげ。周囲も同じアイデアだった。「役者の浅知恵なんて、そんなものだなと思いました」。その単発ドラマに出演する前、40代に入った頃から「役者が家で思い付くのは、たかだかそんなこと」と考えていたが、それを象徴する出来事が起こった。「だから、僕としては『遅刻をせず、風邪をひかず、元気に現場に行く』ことの方が大事だったりするんです。いかに、ちゃんと台本を読んで、その場所にいられるか」。今作の制作発表で松本監督や共演者からは“演技の引き出しの多さ”を絶賛されたが「そう言っていただくのはありがたいですが、本来なら、例えば衣装も髪型も一緒なのに全然違う人物に見えるというのが、一番素晴らしいことだと思うんです。僕はまだ、それができないから、顔を変えたり、小手先でいろいろしていますが、そういう意味で言うと、まだまだ。『引き出しが多い』と言われるぐらいじゃ、まだまだダメ。もっともっとすごいところに行かないといけないと思います」。名脇役が見据える境地は遥か彼方にある。

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