“カメ止め現象”テレビ界にも波及 新鮮だったワンカット撮影

[ 2018年12月29日 12:00 ]

「古館トーキングヒストリー」に渡辺大(中央)が演じる坂本龍馬を守る三吉慎蔵役で出演した濱津隆之(左)。古舘伊知郎がワンカット、8分間の逃走劇を実況中継
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 【激動2018 芸能(16)】今年の映画界最大の話題は「カメラを止めるな!」(監督上田慎一郎)の特大ヒットだ。製作費わずか300万円。出演俳優も全員無名。しかも冒頭から37分間は一度も映像が切り替わらないワンカット撮影のゾンビもの。6月23日にたった2館で上映がスタートすると連日満席。最終的に約350館にまで拡大するフィーバーぶりだった。今月初めにDVDが発売になった後も上映が続く異例の展開。興行収入は31億円を超えており、今年公開の実写邦画では並み居る大作を抑えて4位につけている。邦画配給関係者は「37分間ワンカットなど大手の大作では考えられない。インディーズ作品ならでは。この新鮮さがウケた」と話す。

 “カメ止め現象”はテレビ界にも飛び火している。来年1月5日放送のテレビ朝日「古舘トーキングヒストリー〜幕末最大の謎 坂本龍馬暗殺、完全実況〜」(後9・00)に8分間ワンカットの映像が登場する。寺田屋襲撃事件で長州藩士・三吉慎蔵が龍馬を守って逃がす再現ドラマ。さらに三吉役に、ほかでもない「カメ止め」主演の濱津隆之(37)が抜てきされた。

 「カメ止め」を観賞した樋口圭介ゼネラルプロデューサーが「混乱の中で映画監督を演じ切った濱津さんと三吉のイメージが合致した」とキャスティング。番組は古舘伊知郎(64)が歴史的出来事を実況中継するというもので、濱津の出演を知った古館が「龍馬の逃走劇をワンカットでやってみては?」とアイデアを出した。

 「テレビでもワンカット撮影はなかなかないことだった」と樋口氏。京都の太秦映画村のセットに約1キロにわたる逃走経路を造って撮影。古舘はさらに、映画で濱津が放つ「カメラは止めない!」というセリフを三吉が言うのはどうか?と発案。会議の結果「歴史上の人物なので」(樋口氏)と実現しなかったが、その代わりに古舘が「(龍馬は)逃げ切れるのか!カメラは止めない」と実況することになった。樋口氏は「ワンカット撮影で臨場感とスリルがある8分間の逃走劇が出来上がった」と手応えを口にする。カメ止めには「番組制作でも参考にできる点がたくさんあった」とも語る。年明けには英仏での公開が決定。映画館だけでなく、来年はテレビでも“カメ止め的な映像”を目にする機会が増えそうだ。=終わり=

 ≪映画人、喜びと危惧も≫「カメ止め」の成功はインディーズ系映画人に夢を与えた。和歌山で「田辺・弁慶映画祭」の運営に携わる映画活動家の松崎まこと氏は「カメ止めの上映館でインディーズ系作品の予告編が流れ、“なんだか分からないけど面白そうだ”と足を運んでくれてヒット作も生まれている」と話す。松崎氏は同時に警鐘も鳴らす。「300万円でも撮れるはずという風潮ができると、現場にお金が回らずスタッフは疲弊する」と危惧。「“第2のカメ止め”を目指してインディーズの製作者は盛り上がっている。それだけにプロデューサー、製作会社にはしっかりと対応してもらいたい」と語った。

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