北川悦吏子氏「半分、青い。」糧に　今後は？アニメ脚本に興味　盟友トヨエツと再共闘も　次回作は構想中

「半分、青い。」脚本・北川悦吏子氏インタビュー（２）

構想５年、執筆１年半にわたったＮＨＫ連続テレビ小説「半分、青い。」の作劇を振り返った脚本家の北川悦吏子氏（Ｃ）撮影／萩庭桂太
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　脚本家の北川悦吏子氏（５６）が朝ドラに初挑戦し、オリジナル作品を手掛けたＮＨＫ連続テレビ小説「半分、青い。」（月〜土曜前８・００）は今月２９日に最終回を迎える。構想５年、執筆１年半にわたる過酷な創作を終えたばかりだが、今後について尋ねると「いろいろなノウハウを培ったので、よりよいものが書けるに違いないと思っています」と今回の経験が糧になると確信。新たにチャレンジしたい分野は「アニメの脚本」と打ち明けた。

　朝ドラ通算９８作目。フジテレビ「素顔のままで」「ロングバケーション」「空から降る一億の星」やＴＢＳ「愛していると言ってくれ」「ビューティフルライフ」「オレンジデイズ」など数々の名作を生み“ラブストーリーの神様”と呼ばれるヒットメーカー・北川氏のオリジナル脚本。岐阜県と東京を舞台に、病気で左耳を失聴した楡野鈴愛（にれの・すずめ）が高度経済成長期の終わりから現代を七転び八起きで駆け抜ける姿を描く。

　昨年元日から毎日書き続け、今年７月３０日に完全脱稿。その時の心境を問われると、北川氏は劇中にも登場したボクシング漫画の金字塔「あしたのジョー」の最終回、主人公・矢吹丈が“真っ白な灰”になったような気分と表現。「本当に魂を抜かれてしまった感じがします」と精魂尽き果てたことを明かした。

　各週のサブタイトルは第１週「生まれたい！」など鈴愛（永野芽郁）の“生きる本能”を「〜したい！」のワンフレーズで表現。大役を勤め上げ、自身の「〜したい！」をサブタイトルで表すと？と聞かれると「もう書きたくない。初めて否定的なサブタイトル」と即答し、笑った。「『また書きたい』と思えるまでに、どれだけ時間がかかるか。今は『また書きたい』と思える日が来るのを信じて待つ感じですが、じゃあ『是非また書きたい』ということで」と苦笑いした。

　次回作について尋ねると「書きたいものは２〜３、プランがありますが、まだ『半分、青い。』が抜け切らず、頭が追いついていません。皆さんの心を打つものを書くために、今は自分に“波”が来るのを待っているところです」。構想を温めている段階だが、既に制作サイドからは「形（企画書）にしてほしい」と依頼されているという。

　それとは別に「これは自分で思っているだけですが、アニメの脚本を書いてみたい。アニメは実写の脚本より１・５倍長いそうなんですよ。今回、朝ドラの１５分×１５６回という枠組みにクリエイター心が刺激されたように『１・５倍って、どういうこと？』『自分の書いたセリフがアニメになった時、どういう感じになるのか』と興味が湧いて。朝ドラと同じで、今までやったことがないことに挑戦したいんです。それに、うちの娘もアニメが好きで、声優の入野自由（みゆ）さんのファン。私も『おそ松さん』（入野はトド松役）を見て、あの声でセリフをおっしゃってほしいと思いました」

　近年は朝ドラ登板から数年後に大河ドラマに起用される脚本家も目立つが「歴史は苦手なので、全く書けないと思います」。もう１回、朝ドラは？と水を向けると「もう気が触れちゃう」と声を上げ「何年か経ったら、もう１回、今回のような『毎日がお祭り騒ぎ』をやりたいと思うかもしれませんが、本当に精神的に参ったので、今は休みたいしかないですね」

　３日に１本、計１５６話を書き上げる“ハイペースマラソン”を完走し、自信も手にした。「とにかく１年半書き続けたので、ものすごく鍛えられたと信じています。いろいろなノウハウを培ったので、今後、よりよいものが書けるに違いないと思っています」と実感している。

　北川氏にとっての朝ドラは「１５分をどう見せ切るか」。己の博識に絶対の自信を持つエリートサラリーマン・三上修二（草刈正雄）が“ズンドコベロンチョ”なる謎の言葉に翻弄される姿を描いた傑作「ズンドコベロンチョ」（１９９１年）など、フジテレビ「世にも奇妙な物語」の脚本を何作も担当したキャリアが生かされた。

　「今回、『半分、青い。』を書くまで『世にも奇妙な物語』の経験が、朝ドラの身になるとは全く思っていなかったんですが、アイデア勝負の『世にも奇妙な物語』と『１５分をどう見せ切るか』の朝ドラは使う頭が似ていて。『これって、あの時の…』と思うことが多々ありました。秋風羽織も言っています（『一見、余計なことをする時間も、回り道もあっていいと思います。いろんなことがあって、すべてが今につながっていく』第４５話、５月２３日）が、本当に『人生、無駄なことなんてない』と。映画を撮ったこと（２００９年『ハルフウェイ』、１２年『新しい靴を買わなくちゃ』の監督・脚本）も、今ようやくフィードバックされてきて。自分が演出を経験していると『たぶん現場がこうなるから、ト書きをこうしておこう』とか。そういうことが少しずつ次の作品に生きてくるんだと感じています」

　こう話しているうちに「『半分、青い。』を書き終えたら、死んでもいいぐらいの気持ちだったんですが、全くそうは思っていないですよね」と、はたと気付き「これを糧にしないとやっていられないぐらいの感じですね。本当に」と実感がこもった。

　“真っ白な灰”になってなお「北川さん、企画書を書いてください」と体を揺すられる現状に「容赦ないと思います」と笑いながらも「そうすると、私も人間ですから、その人の熱にのまれて『そんなにおっしゃってくださるなら』となりますよね。人って結局、いつも高いテンションは保てないので、誰かの熱に乗っかることもあるじゃないですか。今回は私の熱量がＮＨＫさんを巻き込んだんですが、次は自分が巻き込まれていってもいいかなと思っています」と新しい制作者との出会いに期待した。

　大ヒット作「愛していると言ってくれ」（ＴＢＳ、９５年）を一緒に作り上げ、１７年ぶりのタッグとなった今作は秋風羽織役を託した盟友・豊川悦司（５６）からは「北川さん、還暦になるまでに、もう１本やりましょう」と言われたという。

　アニメか、豊川出演作か、はたまた――。５６歳にして「１年半の地獄の特訓」を積み、パワーアップした北川氏の“次の一手”が待ち遠しい。