東京五輪へ“民泊特区”の挑戦と課題 外国人観光客に提供する日本の日常感

[ 2018年7月31日 09:45 ]

国家戦略特区に指定された東京都大田区にある民泊専用マンションの部屋。清掃後にはホテルに見劣りしない清潔感が漂う
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 2020年7月の東京五輪開幕まで、あと2年を切った。年々増加する海外からの観光客が大会前後はさらに増え、都内の宿泊施設不足が懸念されている。対策として注目されているのが、一般住宅の空き部屋を活用する「民泊」の浸透だ。その民泊の営業について定めた住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月15日に施行され、約1カ月が経過した。

 民泊が正式な宿泊施設として認められる一方、取り締まりの強化で「ヤミ民泊」の多くが淘汰されるとみられていた。実際に届け出の動きは鈍く、国内に民泊物件が約6万件あったとされるのに対し、7月6日時点の届け出はわずか5397件。背景には「年間180日以内」という営業日数上限のほか手続きの煩雑さ、自治体が個別に定める条例の厳しさなどがある。

 一方で一部の地域には、新法の施行以前から実験的に民泊の運営を認められた「国家戦略特区」がある。東京都内で唯一その特区に指定されているのが大田区。羽田空港からの国内外の旅行者に素通りせず足を止めてもらう狙いで、16年1月に全国で最初に導入された。特区では年間180日の営業日数制限がないのが最大のアドバンテージ。認定民泊施設は少しずつ増えており、7月12日現在で61件、357部屋で定員数は1077人となっている。

 民泊の雰囲気を探るため、このほど同区の住宅街にあり、認定民泊施設の一つである今春オープンの3階建て専用マンションでの清掃現場に同行した。清掃を請け負うのは2014年に創業し、大田区に拠点を置く民泊清掃代行の草分け「air’s ROCK♪(エアーズ・ロック)」。外国人観光客が1週間滞在したという部屋でチェックアウト後の午前10時過ぎ、同社の女性スタッフが作業を開始した。

 使用状況は良好で、大きな汚れは見当たらない。スタッフは3種類に分別されたゴミ捨てを手始めに台所と洗面所の掃除、エアコンフィルター洗浄、カーペット掃除、窓ふき、シーツ交換などを手早くこなす。汚れのなさそうな箇所も手を抜かず、約1時間かけてきめ細かく清掃。エ社の幹部は「部屋数が多くスピード重視のホテル清掃より、質は高いと思う」と胸を張った。

 この物件は1泊約7000円。民泊の大手予約サイトでは、外国人の名前と宿泊者の顔写真入りのレビューが6件掲載されていた。総合評価は5点満点で4・5点と高く「設備がとても清潔。街も静かで本当の日本を感じられた」「大きな駅には遠いけど部屋は素晴らしく、ホストの対応も良かった」と好意的なコメントが並んだ。

 同じく国家戦略特区に指定されている大阪市では今年2月、届け出のない民泊で外国人容疑者による殺人事件が発生した。その影響もあり、民泊には「危ないのでは」というイメージがつきまとう。だが、延べ5万室以上の清掃を手掛けてきたというエ社の幹部は「これまで犯罪や大きなトラブルに巻き込まれたことは一度もない」という。「その事件がたまたま、民泊で起きたというだけのこと。マイナスのイメージをどう変えていくかが課題」と話す。

 ホテルにはない落ち着きや、その街に実際に住んでいるような日常感を味わえる民泊。特区での成功を足掛かりに全国でも安全性と信頼度が向上すれば、2年後の本番へ向けた強い追い風となりそうだ。(矢吹 大祐)

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2018年7月31日のニュース