歓待の記憶

[ 2018年7月25日 09:00 ]

 【我満晴朗のこう見えても新人類】エディンバラでクルマを借り、先輩カメラマンとともに向かった先が「ジ・オープン」開催地のカーヌスティ。今年ではなく1999年のことですが。

 大会主催者から指定された宿を目指す。カーナビなどない時代。地図を頼りに到着したのは……あれ?ごく普通の民家ではないか。日没後とあってしばしためらっていたら、ドーベルマンっぽい大型犬が激しくほえながら飛び出してきた。続いて住人とおぼしき中年夫婦がにこやかな表情で現れ「ゴルフの取材でしょ?ウエルカム!」。なんと、彼らの自宅敷地内にあるゲストハウスが目的地だった。

 鍵を受け取り、中に入る。小ぶりな外見とは裏腹に、ロビーやリビングルームにはしっかりとスペースが割かれている。5つある寝室も決して広大ではないものの、小ぎれいに整理整頓され、宿泊者をいやしてくれる。オーナーご夫妻の自宅はもちろん目の前だ。「何かあったら遠慮なく言ってください」。彼らと会話を交わしているうちに、先ほどまで敵意丸出しの番犬が態度を一変させてなついてきた。こちらも歓迎モードか。

 会場となるカーヌスティ・ゴルフリンクスのクラブハウスには徒歩5分ほどで到着する、絶好のロケーションだ。取材記者にとって、これほどのぜいたくはない。睡眠時間が取材開始ぎりぎりまで確保できる。忘れ物をしてもすぐに取りに帰れるし、取材中の昼寝も可能だ。実際はそんな暇など全くなかったのだけど。

 開幕前夜にはホームパーティーに招待された。ご近所さんが飲み物や食材を持ち寄って会費無料の「非公式前夜祭」を開くという。

 地元のスコッチ飲み放題の期待を胸に出向いたら、すでに15人ほどの皆さんがワイングラスを手に盛り上がっている。あれっワイン? 中途半端な表情のままあいさつを交わすと、日本人がかなり珍しいのか、ぐいぐいと疑問をぶつけてきた。

 「トーキョーは人だらけなんだって?」「日本人もゴルフうまいのかい?」「でも物価が高いからプレーフィーも高いんでしょ」「3階建ての練習場があるってホント?」

 いかにも善男善女による好奇心丸出しの質問攻勢。日本語の次に不得意な英語をどうにか駆使しながら答えたのだが、ワインの良いが適度に回ってシドロモドロ状態。それでもこちらの意図はなんとなく伝わったと思う。思わぬところで異文化交流。バンデベルデの悲劇よりも思い出深い体験だった。

 今思うと「民泊」に「お・も・て・な・し」。2年後のキーワードだ。19年前に味わったあの気持ちよさを、1人でも多くの訪問者に味わってもらいたいと願う。

 わが家にもゲストハウスがあったらなあ。(専門委員)

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2018年7月25日のニュース