大杉漣さん遺作「バイプレイヤーズ」脚本ふじきみつ彦氏が明かす「テレ東だろ?」秘話 

[ 2018年3月7日 07:00 ]

テレビ東京「バイプレイヤーズ〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜」のメーン脚本を担当したふじきみつ彦氏
Photo By 提供写真

 2月21日に急逝した俳優の大杉漣さんがリーダーとして牽引し、名脇役たちが再び本人役で共演したテレビ東京の連続ドラマ「バイプレイヤーズ〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜」(水曜後9・54、全5話)は7日、最終回を迎える。前作からメーンライターを務める脚本家・ふじきみつ彦氏(43)が執筆の苦労や名台詞「テレ東だろ?」の誕生秘話を明かした。(今回のインタビューは大杉さんが亡くなる前の2月19日に行いました)

 ドラマは約1年ぶりの復活となり、深夜(金曜深夜0・12)の40分枠からプライム帯(午後7〜11時)の1時間枠に昇格。昨年1〜3月に放送された前作「〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」に続き、大杉さん、遠藤憲一(56)田口トモロヲ(60)松重豊(55)光石研(56)が出演。寺島進(54)はスケジュールが合わず、今作は休んだ。

 前回は、6人が共同生活を送る“おじさんだらけのテラスハウス”として話題に。今回は、テレ東制作の朝ドラ「しまっこさん」で共演することになった5人がロケ地を間違えて無人島に流れ着き、サバイバル生活を強いられる。何とか助かり、島の廃屋“島ハウス”で共同生活をしながら「しまっこさん」の撮影に臨む姿を描く。

 ふじき氏は前作12話のうち7話(第1話、第3話、第6話、第7話、第9話、第11話、第12話)を担当。今作は第1話、第2話、第5話を執筆。前作により、3月下旬発表の第6回市川森一脚本賞にノミネートされた。

 候補入りの一報を耳にした時は「『バイプレイヤーズ』は企画そのものがおもしろく、企画を考えたプロデューサーさんや演じる役者さんのパワーが凄いので、脚本に対する評価というものを正直あまり考えていませんでした。それに僕1人で全話を書いたわけではないので『えっ?個人で賞に?』と、とにかくビックリしました」と驚いた。

 大竹まこと(68)きたろう(69)斉木しげる(68)によるコントユニット「シティボーイズ」や、ムロツヨシ(42)主宰のコントライブ「muro式」など、舞台脚本で頭角を現し、その実力を買われて「バイプレイヤーズ」のメーンライターに抜擢された。

 執筆オファーに「たまに『これ、まだ通ってないでしょ?』みたいな、夢のような企画書が来るんですが、『バイプレイヤーズ』はそのスケール感。こんなおもしろい企画が転がり込んでくるはずがないと思いましたが、既に制作・放送は決まっていて。もちろん二つ返事でOKしました」。しかし「執筆をお願いされた時には“6人による共同生活”という骨子だけが決まっていて、そこから、いざ中身を考えてみると、視聴者の皆さんの期待を超えるのは、なかなか難しいと感じ始めました。“予告編だけ凄い映画”になりかねない。正直、怖さもありました」

 事実「通り一遍の、つまらないプロットをたくさん書いたことを覚えています。心配していた現象(“予告編だけ凄い映画”)がまさに起こり始めていて、これはまずいなと。企画の大きさに飲み込まれそうになって、構えてしまっていたんだと思います」と振り返った。

 ピンチを救ったのは、大きな反響を呼んだ前作第1話のセリフ「テレ東だろ?」だった。

 中国の動画配信サイトによる映画「七人の侍」リメークでトラブルが起こり、大杉さんが「侍全員が主役みたいなもんだし。たまにはやろうよ、みんなで主役をさ」と5人を鼓舞すると、寺島が「ちょっと待ってよ。たまにはって何よ。オレもみんなも主役やってるよ。松重だって、遠藤だって」と反論。すると、光石が「テレ東だろ」とポツリ。遠藤が「テレ東の何が悪いんだ」と問い、言い争いが始まる――。あくまでドラマとしてのセリフだが、同局の自虐ネタにSNSには「テレ東のお家芸、最高」などの書き込みが殺到した。

 「一度、構えずに、素直に『テレビ東京の深夜ドラマ』だ(笑い)と思って書いてみたら、結果『テレ東だろ?』が出てきました。ストーリー自体にはそれほど関係ないシーンでしたが、ああいうセリフ、一連のやり取りが書けたことで、この作品のトーンが僕の中で決まったと思います。おじさんたちが“わちゃわちゃ”している感じを出していけばいいんだと。ご本人役ということで、虚実を交えていけばいいという部分も含め、ドラマの方向性が定まったと思います」

 最も苦労したのは、出演者のスケジュールによる脚本の変更。多忙を極める名脇役たちの勢揃いのシーンが急きょ可能になったり、ゲスト出演者が急きょ決まったり「基本的に翌日までなら(脚本の修正依頼は)来ます。1時間後はさすがにないですが」と明かす。

 例えば、今作第2話の冒頭、小日向文世(64)が島ハウス(名脇役が共同生活している家)を訪れるシーン。当初は脚本になかったが、小日向に撮影時間が生まれ、よりおもしろくしようと、新たに書くことになった。「100%仕上がったところから、120%、130%を目指す。それはいいこと、うれしいことなんですが『決定稿の後に、あれ?また直すんですか?』ということがよくありますね。いつまで経っても脱稿できないんです。『バイプレイヤーズ』ならではですよね」と苦笑い。それでも「いろいろなパターンの追加や変更があるので、おもしろい体験になりました」と苦労しながらも執筆を楽しんだ。

 最後に第3弾があるとすれば?と聞くと「(今作)第2話で松重さんが寝られないというだけで、どこまで行けるかチャレンジしたんですが、もっとドラマチックなことが起きない話が書けたらいいなと思います。例えば、瓶のフタが開かないとか。瓶のフタを延々と開けようとしているだけでも、あの名脇役の皆さんで、おもしろい脚本が書ければ、きちんとドラマとして成り立つんじゃないかと。名脇役の皆さんは揃っただけでおもしろいので、あまりゴテゴテ足すと、おもしろくなくなる。なるべく引き算で考えてみたいと思うんです」

 もしも名脇役が瓶のフタを開けたら――。タイトルを聞いただけで、ワクワクして仕方がない。そして、何らかの形で大杉さんも登場する第3弾を期待したい。

 ◇  ◇  ◇

 今回のふじき氏へのインタビューは大杉さんが亡くなる前の2月19日に実施。今作第1話は遠藤、第2話は松重、第3話は田口、第4話は光石が物語の中心。最終回は大杉さんのメーン回だったため、ふじき氏は急きょ行われた脚本会議を経て、内容を修正した。撮影済みだった約3割のシーンは必ず生かすことを前提に、練り直し。次の撮影が迫っていたため、脚本直しはほぼ1日で終えた。

 「バイプレイヤーズ」は名脇役たちが本人役を演じているとはいえ、フィクション。大杉さんが仲間との長年の絆の末に「たどり着いた寄港地みたいな作品」と表現し、愛してやまなかった「バイプレイヤーズ」をドラマとして完成させたい――。それが、チーム全員の思いだった。チーム全員が総力を結集し、完成に導いた今夜の最終回。どのようなエンディングを迎えるのか、目を凝らしたい。

 ◆ふじき みつ彦(ふじき・みつひこ)1974年(昭49)12月19日、横浜市生まれ。大学時代、アマチュアのお笑いコンビを組み、お笑いの道を目指していたが、卒業後、広告代理店に就職。しかし、コント作家の夢をあきらめ切れず、30歳の時に会社を辞め、執筆活動を始めた。コントや演劇をはじめ、フジテレビ「世にも奇妙な物語」の「通算」「JANKEN」「7歳になったら」、Amazonプライムのドラマ「ダイキギョー」など、幅広く活躍。NHK Eテレ「みいつけた!」などの教育番組においては、キャラクター作りから携わっている。

続きを表示

2018年3月7日のニュース