「ひよっこ」朝ドラ史に新しい風 地味ヒロインの成功 「おしん」と似て非なる点
脚本家の岡田惠和氏(58)が心温まる世界を紡ぎ出し、半年間にわたって日本の朝を彩ったNHK連続テレビ小説「ひよっこ」(月〜土曜前8・00)は9月30日に最終回(第156話)。インターネット上には放送終了を惜しむ“ひよっこロス”が広がった。近年多かった朝ドラ王道パターンの「ある職業を目指すヒロイン」「偉業を成し遂げる女性の一代記」とは異なり、実在の人物をモデルにしないオリジナル作品。派手さはなくとも、視聴者の心をつかんで離さなかった理由は何なのか。「みんなの朝ドラ」(講談社現代新書)などの著書で知られるドラマ評論家の木俣冬氏が総括、分析した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝ドラ96作『ひよっこ』は、女の大河ドラマ化が進んでいた朝ドラの伝統に、小さな革命を起こした。
大河でなくていい、地味でもいい、そこに幸せはある。ということを描いて、多くの支持を獲得したのだ。
「この世は悲しいことだらけ」
これは、『ひよっこ』最終回にて、主人公みね子(有村架純)が『家族みんなで歌自慢』に出場して歌った「涙くんさよなら」の一節だ。恋をしたから、しばらく涙とお別れ宣言するという歌を歌いながら、涙するみね子は、ほどなく、2番目の恋の相手・ヒデ(磯村勇斗)と結婚する。
1964年から68年にかけて、ドラマで描かれた4年間に、「悲しいことばかり」があったかというと「ばかり」かどうかは別として、確かに「悲しいこと」はあった。
高度成長期に取り残された地方(架空の地・奥茨城村)の農村の家計が楽ではないこと。出稼ぎに東京に行ったお父ちゃん(沢村一樹)が行方不明になってしまい、2年半後にみつかったときには記憶喪失で、美人女優(菅野美穂)の家に居候していたこと。初恋の相手(竹内涼真)とは身分違いで別れざるを得なかったこと。家に仕送りをしているため、なかなか欲しいものが買えないこと。
……と、こんなふうに、家のために働くこと優先で、自分の目標や夢をもつ余裕がなく、彼女をモデルに漫画を描いている漫画家たち(岡山天音、浅香航大)には、人生が「地味」だとダメ出しされてしまう。
だが、『ひよっこ』では、「泣くのはいやだ 笑っちゃおう」だとか「悲しいことを、人の力によって打ち消す。マイナスをプラスにする」だとかいう言葉が折につけ出てきて、「悲しいこと」を転化するトライが行われてきた。みね子は常に、悲しみをちょっとだけずらして回避してきたのである。
そこで比較したいのは、朝ドラ絶対王者であり、波乱万丈、女の一代記のロールモデル『おしん』(84年)との、パラレルワールドのように、少し似ていて、大きく違う点である。
『おしん』のヒロインは東北の出。奥茨城村からさらに雪深い山形で貧しい暮しをしていたおしんは、奉公に出た町でつらい目に遭う。祖母に持たされたお金を、盗んだお金と間違えられ、責めを受けるエピソードは目を背けたくなる。『ひよっこ』の序盤、みね子も、東京に行く際、祖父(古谷一行)から1万円をもらう。それが倉本聰の『北の国から‘87 初恋』のオマージュではないかと感じた視聴者もいたが、朝ドラ好きとしては『おしん』を思い出し、「悲しい目」に遭うフラグでないようにと祈ったものだ。そのお金が、最終回の1話前で、『歌自慢』のために家族が上京する資金となったときには、ほんとうに胸が踊った。
また、みね子の初恋の人は佐賀の御曹司で、おしんの夫も同じ。おしんは身分違いを押して嫁ぎ、姑からひどい目に遭う。みね子の場合、熟考の末、自ら身を引いた。もし彼女ががんばって嫁いだら、ひどい目に遭っていたかもしれない。彼女は初恋を諦めた分、ヒデという気の合う伴侶と結ばれることができたのだ。
成功するが波乱万丈なおしんと、地味だが安定した幸せを得ているみね子。どっちがいいだろう。波乱万丈も悪くないが、地味で安定も悪くない。
昨今の朝ドラが、波乱万丈で大きな事業を成し遂げる主人公の物語のほうが主流となっているのは、そのほうがドラマチックだから無理もない。だが、一方で、みね子的な地味路線も模索していたのだ。例えば『ちりとてちん』(07年)では、ヒロイン(貫地谷しほり)は、専業主婦のお母さん(『ひよっこ』の、一家にひとり欲しいと言われる愛子さんを演じた和久井映見)の生き方を一度は否定するものの、最後の最後に、その道を認め、自らそちらを選ぶ。『つばさ』(09年、次の『わろてんか』と同じ後藤高久が制作統括をつとめた)の序盤、ヒロイン(多部未華子)が、家を出てしまった母(高畑淳子)の代わりに家庭をきりもりし、主婦とは毎日同じことをすることだと悟っている。『まれ』(15年)のヒロイン(土屋太鳳)も、序盤、夢見がちな父を反面教師とし、夢など見ずに公務員になろうとする。だが、これらのトライはあまり受け入れられなかったのか、視聴率的には低いまま終わった。
『ひよっこ』のヒロインは、家族優先で、自分のことは後回しにして、その分、わずかなお給料で毎月、洋食屋のメニューを一品ずつ制覇していくというささやかな目標をもって日々暮らしていて、その慎ましさは受け入れがたいと感じる視聴者の声もあった。だが、彼女は、家の事情もあって、ふつうよりもやや地味な暮らしをしているだけの自分を、決して悲しい人間だと思わない。ささやかなプライドだけは失わなかったヒロインの堅実さは、やがて、安定した呼吸のように心地よいリズムとなって、毎朝、なくてはならないものになった。最初は、超えられなかった視聴率20%の壁を、中盤から超えて以降は、安定の20%台となり、最終週では、自己最高を更新し続けた。毎朝の定期的なランニングは、最初は辛いけれど、毎日、やっていると慣れてきて、やらないほうが気持ち悪くなるようなものだろうか。
決して、卑屈にならず、嫉まず、自分も他人も肯定しながら生きてきたことで、朝ドラの伝統に少し風が吹いた。地味なヒロインの成功。おめでとう。そして、ありがとう。
◆木俣 冬(きまた・ふゆ)東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンターテインメント作品のルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。「マルモのおきて」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「IQ246〜華麗なる事件簿〜」などドラマのノベライズも手掛けている。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」「SPEC全記録集」「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」など。レビューサイト「エキレビ!」に朝ドラ評を執筆。「まれ」からは毎日レビューを連載している。
◆「ひよっこ」総集編 10月9日午後3時5分から放送。
2017年10月1日のニュース
-
GARNiDELiA日本公演スタート、「ビリビリ動画」で注目 来春に東名阪ツアー
[ 2017年10月2日 01:22 ] 芸能
-
安室奈美恵 最後のアルバム収録内容発表、5大ドームツアーも
[ 2017年10月2日 00:00 ] 芸能
-
結成5カ月でキングオブコントVあと一歩!男女コンビ「にゃんこスター」衝撃全国区デビュー
[ 2017年10月1日 23:15 ] 芸能
-
かまいたち、キングオブコント10代目王者!結成5カ月の男女コンビ退けた
[ 2017年10月1日 22:40 ] 芸能
-
にゃんこスター、キングオブコントで衝撃得点!松ちゃん「まんまと入れさせられた」
[ 2017年10月1日 21:54 ] 芸能
-
松ちゃん「来年は浜田とコントやりたい」 キングオブコント生放送で衝撃発言
[ 2017年10月1日 20:13 ] 芸能
-
マジプリ 巨大広告が16日に渋谷109に登場
[ 2017年10月1日 20:04 ] 芸能
-
南果歩 精神的な疾患に苦しんだ時期も「今は怒らない、悲しまない、嘆かない」
[ 2017年10月1日 18:32 ] 芸能
-
哀川翔 家庭内のルール「好き嫌いは1個まで」の理由とは
[ 2017年10月1日 17:10 ] 芸能
-
国仲涼子 第二子妊娠発表以来初の公の場「太りやすい体質 我慢しています」
[ 2017年10月1日 16:33 ] 芸能
-
東出昌大の“怪演”再び…新キャストで描くスピンオフドラマ「予兆 散歩する侵略者」
[ 2017年10月1日 16:24 ] 芸能
-
フジ・椿原慶子アナ“夜の顔”就任に「責任」痛感 結婚は「しばらくなさそう」
[ 2017年10月1日 16:00 ] 芸能
-
「劇団EXILE」秋山真太郎が結婚発表 交際3年「笑顔に溢れた家庭を」
[ 2017年10月1日 15:04 ] 芸能
-
前田旺志郎 体育祭より映画PR 共演者に感謝「心が落ち着いた」
[ 2017年10月1日 13:38 ] 芸能
-
豊田真由子氏の「尊敬してます」にアッコ戸惑う「言いづらいわ」
[ 2017年10月1日 13:25 ] 芸能
-
YUKI 所属事務所が契約終了を発表「未来への意思を尊重」
[ 2017年10月1日 13:01 ] 芸能
-
プロ一本か両立か…藤井聡太四段、進路は“長考”「強くなることを第一目標に」
[ 2017年10月1日 12:47 ] 芸能
-
東野幸治 往年のごっつキャラの復活はNG? 佐々木恭子アナ「今はアウト」
[ 2017年10月1日 12:14 ] 芸能
-
ZOZOTOWN「送料自由」を試験的にスタート 前沢氏「気持ちや都合で決めて」
[ 2017年10月1日 11:46 ] 芸能
-
松本人志 平昌五輪HPの地図問題に持論「放っておいたらいい」
[ 2017年10月1日 11:20 ] 芸能
-
山崎夕貴アナ 彼氏が嫌いな芸人にランクイン「しょうがないですよね」
[ 2017年10月1日 10:56 ] 芸能
-
舛添氏が断言 小池氏は必ず出馬する「出なければ政治家生命終わり」
[ 2017年10月1日 10:53 ] 芸能
-
松本人志「水曜日のダウンタウン」存続を明言 スタッフ逮捕も番組終了「100%ない」
[ 2017年10月1日 10:18 ] 芸能
-
柴咲コウが考える「直虎」主演に選ばれた“理由” 政次ロスも告白
[ 2017年10月1日 10:00 ] 芸能
-
まゆゆ AKBに全て捧げた11年…リセットして次に進まなくちゃ
[ 2017年10月1日 09:30 ] 芸能
-
くら替え出馬は?てんびんにかけた末のリセット不能な小池劇場の脚本
[ 2017年10月1日 09:00 ] 芸能
-
テレ東、アウトレイジ軍団で“異色”バラエティー挑戦!北野作品の裏側も紹介
[ 2017年10月1日 08:00 ] 芸能
-
「ひよっこ」朝ドラ史に新しい風 地味ヒロインの成功 「おしん」と似て非なる点
[ 2017年10月1日 08:00 ] 芸能
-
「シン・ゴジラ」11・12地上波初放送 テレ朝、人気番組と連動企画も
[ 2017年10月1日 05:53 ] 芸能
-
蒼井優 阿部サダヲと共演の松坂桃李ディスる「最低な上に薄い」
[ 2017年10月1日 05:48 ] 芸能
-
佐藤健、興奮気味に暴露「綾野剛が裸になるシーンでバラの香り」
[ 2017年10月1日 05:43 ] 芸能
-
木崎ゆりあ、AKB卒業…今後は女優「西田敏行さんみたいになりたい」
[ 2017年10月1日 05:38 ] 芸能
-
会場どよめき…“びちょびちょ”橋本マナミ 白Tの下に亀甲縛り
[ 2017年10月1日 05:33 ] 芸能
-
渡哲也、新CM撮影で仕事復帰 吉永小百合に映画共演“ラブコール”
[ 2017年10月1日 05:30 ] 芸能
-
朝ドラ最終回“ひよっこロス”に希望の光 架純、続編「なんとでもつくれる」
[ 2017年10月1日 05:30 ] 芸能
-
加藤シゲアキ主演「グリーンマイル」初日 キング氏小説を世界初舞台化
[ 2017年10月1日 05:30 ] 芸能
-
天童よしみ、デビュー45周年記念公演 フィナーレは紅白!?
[ 2017年10月1日 05:30 ] 芸能
-
島津亜矢、ポップスカバーライブ 「根底に演歌」も多彩な試み
[ 2017年10月1日 05:30 ] 芸能
-
フジ「月9」開始日延期 選挙シーンあり「総合的に判断」
[ 2017年10月1日 05:30 ] 芸能
-
恥ずかしい瞬間の写真も!?ytvアナウンサーカレンダー13日発売
[ 2017年10月1日 05:00 ] 芸能