古本市での“再会”に思わず小躍り!

[ 2017年8月23日 10:10 ]

 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】神田神保町界隈だけでなく、暇があれば都内の古書店を巡っている。8月10日から15日まで渋谷の東急東横店で開催された「渋谷大古本市」にも勇んで出掛け、ここでうれしい出合いがあった。26回目を数えた今年の大古本市は東京、大阪の18の古書店が出店し、約10万冊の本が並んでいた。

 映画評論家の筈見恒夫の「映画五十年史」(42年、鱒書房)が200円という超廉価で売られていてそそくさと買い物カゴの中に入れたが、自分の中での一番の掘り出し物はやはり漫画家・佐藤まさあきの作品群だった。1959年にさいとう・たかを(80)らと劇画工房を設立して「劇画」という分野を確立した人で、筆者と同姓同名ということもあり、勝手に親近感を抱いてきた。04年3月11日に66年の生涯を閉じているが、その作品の数々には強く引かれるものがあった。

 「大久保清事件」「吉展ちゃん誘拐事件」「帝銀事件」の「実録昭和猟奇事件」シリーズ3冊がセットで出ていた。ちょうど20年前の97年10、11、12月と3カ月連続で出版された復刻版コミックだ。

 71年3月からわずか2カ月の間に群馬県で女性8人が大久保の毒牙にかかった連続殺人。63年3月31日に東京都台東区入谷で起こった4歳男児の誘拐事件。そして48年1月28日に豊島区長崎の帝国銀行椎名町支店で発生した残虐な毒物殺人。説明するまでもなく、いずれも昭和史に刻まれる重大犯罪だ。

 かつて所有していたが、07年に引っ越した時にほとんどの本を処分。後になって「失敗した…」とほぞをかんだうちの3冊だったから、少し値は張ったもののちゅうちょなく購入。何物にも代えがたいうれしい“再会”となった。

 「実録昭和猟奇事件」の他に「影男」「野望」シリーズといった作品で知られた佐藤だが、74年に発表した「堕靡泥(ダビデ)の星」も忘れられない。脱獄囚と大学教授夫人の間に生まれた主人公の悪行の日々を描いた衝撃作。にっかつが1979年に「堕靡泥の星 美少女狩り」のタイトルで映画化もしている。

 「トラック野郎」シリーズなどで知られる鈴木則文監督が大和屋竺の脚本で腕をふるった成人映画。「トラック野郎」つながりだろう。菅原文太が出演しているのが面白かった。 =敬称略=(編集委員)



 ◆佐藤 雅昭(さとう・まさあき)北海道生まれ。1983年スポニチ入社。長く映画を担当。

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