最もスリリングだったAKB総選挙

[ 2017年6月23日 10:00 ]

AKB48選抜総選挙で結婚発表したNMB48の須藤凜々花
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 【牧元一の孤人焦点】AKB総選挙の取材をしたのは6回目。今回が最もスリリングだった。当初は山本彩や柏木由紀が出馬を辞退したので、どうなることやらと思っていたが、終わってみれば、過去にない深い爪痕をこの胸に残した。

 これは前回のコラムに記したが、まず速報発表での荻野由佳の1位が全くの予想外だった。しかし、その驚きはほんの助走に過ぎなかった。開票イベント開催前日のイベント中止の決定。悪天候は予想できないこともなかったが、実際にそれが現実になってみると、事の重大さに直面した。1万人が開票を生で見ることができなくなった。この日を楽しみに過ごしてきた人たちの落胆、無念、怒りはさぞや大きかったに違いない。

 テレビ中継への影響も心配された。過去に無観客で開票が行われた総選挙はなかった。メンバーが開票結果を受けてステージでどんなスピーチをしようと会場の反応がない。中継を盛り上げるためにはメンバー同士が大きな声を出し続けるしかなかった。ところが、本番になってみると、公民館という狭い空間がメンバーの緊張を保ち続けるのには有効だった。テレビを見ていないので中継の詳細は分からないが、少なくとも現場では、無観客の弊害をほとんど感じなかった。なんとか盛り上げようとするメンバーたちの必死さが光った。

 須藤凜々花の結婚発表は、アイドル史に残る出来事だった。結婚のために引退したアイドルの例はあるが、全国に中継されるステージで結婚発表したアイドルの記憶はない。批判はたくさんある。須藤の順位を押し上げるために大金をはたいたファンの気持ちはどうなるのか。その胸の痛みは計り知れない。ただ、須藤はもともと学力が高く、哲学に関する本も出版した人だ。あの場でああいう発言をすることのリスクは当然考えたに違いない。それでも発表に踏み切った。その覚悟、思いの強さ、特異性に驚嘆するばかりだ。とんでもないアイドルがいたものだと思う。その後の会見で話した「我慢できる恋愛は恋愛じゃない」という言葉もなかなか胸に響くものだった。

 須藤の衝撃の陰に隠れる形になってしまったが、渡辺麻友の卒業発表のインパクトも決して弱くはない。前田敦子、大島優子、篠田麻里子、板野友美、高橋みなみ、小嶋陽菜、そして渡辺という「元祖・神セブン」。渡辺が卒業すれば、その7人全員がグループからいなくなる。2014年、総選挙で1位になった時の言葉が今でも胸に残っている。「AKB48グループは私が守ります」。選挙直前に握手会襲撃事件が起こり、グループの未来に暗雲が垂れこめていた中での決意だった。前田、大島の卒業後、AKBを背負う覚悟が誰よりも強かった渡辺の卒業は寂しい。

 指原莉乃の3連覇、計4回の戴冠も、今後、破れるメンバーはいないのではないかと思わせる大記録だ。最終的には指原が勝つだろうと予想はしていたが、その予想を裏切らずに圧勝して見せた実力に頭が下がる。現在、テレビのレギュラー・準レギュラー番組を10本以上持つ超売れっ子。前田、大島ら偉大な先輩はいるが、「AKB史上最も売れたタレント」という言い方はできるだろう。その大勝に納得する思いが強い。

 さて、この先、今年を上回るスリリングな総選挙を取材する日が来るのだろうか…。 (専門委員)

 ◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当、AKB担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。

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