見逃しました

[ 2017年6月15日 09:30 ]

インディ500で日本人初優勝を果たし、両手を突き上げる佐藤琢磨 (AP)
Photo By AP

 【我満晴朗のこう見えても新人類】5月29日の朝。寝ぼけ眼で何げなくSNSをチェックしたら、モータースポーツ大好きな友人がこうつぶやいている。「琢磨―――!! 最高――――!!」

 一瞬、何のことか全く分からなかった。琢磨って佐藤琢磨だよな?その琢磨が最高って…。

 ここでハッと気づく。そうだ、時期的に、もしかして。慌ててニュースサイトを検索。インディ500を日本人として初めて制した佐藤の姿が飛び込んできた。これって夢じゃないよね。起きてるなオレ。記事を読みながら、体全体が心地よいしびれに見舞われていく。

 9年ほど前。F1通算13勝のデビッド・クルサード(英国)を単独インタビューする機会に恵まれた。引退する寸前のタイミング。世界最高峰レースの内幕について根掘り葉掘り尋ねた後、個人的興味もあってこんな質問を投げてみた。「日本人ドライバーって、なぜF1で勝てないんでしょうか?」

 スコットランド出身のごついドライバーはしばし黙り込んだ。それまで立て板に水のごとく流ちょうに発せられたコメントが心なしか途切れ途切れとなる。

 「う〜ん、なんと言えばいいのか」「結局は文化的な背景までたどり着くのかな…」「日本人は相手を敬うという、とても素晴らしいしきたりがあるけど、時に過剰になるよね…」「フィジカルなものではなく、こういった心理的な面での壁があるんじゃないかな?」

 つまり日本人はあまりにも「いい人すぎる」ということだ。分かる気がする。小さな島国で仲良く暮らすためには周囲との調和が欠かせない。和をもって貴しとなす。そんなDNAを受けついできた集団だ。弱肉強食を地で行く欧米人にメンタルでかなう訳がない。多少ステレオタイプな意見とはいえ、まあ大きく外れてはいないだろう。

 「でもね」とクルサードは続けた。「サトウだけはどこか違うんだ。これは聞いた話だけど、彼は自分のミスを決して認めない。彼がアイム・ソーリーと言ったことはないらしい」。だからこそ生き馬の目を抜くF1で表彰台に立てたのでは、との指摘だ。

 そうなんだ?琢磨といえば絵に描いたようなナイスガイ。取材する際の丁寧な対応はこちらが恐れ入ってしまうほどだ。言葉遣いも明瞭かつ的確。典型的な「いい人」のはずが、実は欧米的な処世術を身に付けてもいたのか。そういえばトヨタに接触して「危険なドライビング」と判定され成績を抹消された05年日本GPでは謝罪めいた言葉は一切なく「最近、厳しい判定が多いですよね」と、あくまでレースアクシデントを強調していた姿を思い出す。

 結局F1では3位が最高だったが、インディ・シリーズ挑戦後は日本人初勝利をマーク。そして今回の歴史的金字塔だ。伊達や酔狂でここまで上り詰めたわけではない。快挙から2週間以上たった今も、筆者の体には心地よいしびれが残っている。 (専門委員)

 ◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京都生まれ。ジョン・ボンジョビと同い年。64年東京五輪は全く記憶にない。スポニチでは運動部などで夏冬の五輪競技を中心に広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。たまに将棋の王将戦にも出没し「何の専門ですか?」と尋ねられて答えに窮する。愛車はジオス・コンパクトプロとピナレロ・クアトロ。

続きを表示

「美脚」特集記事

「三浦春馬」特集記事

2017年6月15日のニュース