ディラン ノーベル文学賞授賞式スピーチ文で謝意「光栄に感じる」

[ 2016年12月12日 05:30 ]

ノーベル賞文学賞を受賞したボブ・ディラン(AP)
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 2016年のノーベル賞授賞式と恒例の晩さん会が10日(日本時間11日)、スウェーデンのストックホルム市内で行われ、授賞式を欠席した文学賞の米歌手ボブ・ディラン(75)のスピーチが代読された。ディランは「名誉ある賞を光栄に感じている」と率直に喜びを表明。「自分の歌は文学か」という問いに「素晴らしい答えを出してくれた」と謝意を表し、「文学」に新たな地平が広がった意義を強調した。

 ストックホルム市庁舎1階にあるれんが造りの大広間で開かれた晩さん会。アジタ・ラジ駐スウェーデン米大使がディランのスピーチを代読し、各賞受賞者や関係者ら約1300人が静かに聞き入った。

 冒頭、「出席できずに申し訳ありません」とおわびし、「名誉ある賞を光栄に感じている」と心境を告白。過去の受賞者であるトーマス・マンやヘミングウェーら「文学界の巨人」を列挙し、その中に自分の名前が連ねられることに「言葉を失う」と喜びを表現した。

 劇作家だった英文豪シェークスピアも、考えていたのは舞台のことで「文学」という意識はなかったはずだと指摘し、同じように「私のしてきたほとんど全ての中核にあるのは歌」だと訴えた。

 「5万人の前で演奏するより50人に演奏する方がより難しい」という例えを用いて、少人数の方が事象を明瞭にとらえられると説明。5人で構成されるノーベル賞委員会からの評価を「私にとって大切」とした。さらに、「自分の歌は“文学”なのだろうか」と自問したことはないと戸惑いをにじませつつ、その問いに時間をかけて答えを出してくれたとして、スウェーデン・アカデミーの選考にも謝意を表した。

 共同電によると、歌手として初の受賞者となったものの、「所用」を理由に授賞式を欠席。代わって友人の米歌手パティ・スミス(69)が反戦ソングとして知られるディランの代表曲「はげしい雨が降る」を披露した。緊張して歌が止まり、やり直す場面もあったが、静かに歌い上げた。

 10月の授与発表後に沈黙を続けたため、さまざまな臆測が広がったディラン。代表曲「風に吹かれて」の自筆の歌詞がニューヨークで競売にかけられ、32万4500ドル(約3740万円)で落札されるなど過熱する周囲をよそに、「ロック詩人」はこれからも淡々と歌と向き合っていきそうだ。

 ▼湯川れい子氏(音楽評論家)ボブ・ディラン氏のスピーチで最初に浮かんだのが「努力に勝る天才なし」という言葉。自分がやりたいことに、真摯(しんし)に、畑を耕し作物を育てる人のように向き合ってきたことが真っすぐに伝わり、涙が出そうになりました。中でも、5万人の前よりも、50人を前に演奏する方が難しいというくだりは、彼の誠実さがにじみ出ていて、目に見える一人一人に丁寧に向き合おうとする姿勢は、彼の生き方そのもの。ノーベル文学賞という大きな賞を受賞しても、浮足立つことなく、これまで通り、信じる楽曲を作り、歌い続けてくれることでしょう。

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