こち亀終了の秋本治氏が4作連載開始のワケ「描きたい時が描き時」

[ 2016年12月4日 10:35 ]

新作を連載する漫画誌4誌を手にする秋本治氏
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 人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)」の40年にわたる連載を終え、新作4本の連載に挑む秋本治氏をインタビューした。

 秋本氏が熱く語ったのは「シリーズ連載」という異例の連載形態。漫画誌4誌に、不定期で作品を発表し続けていくスタイルだという。そこに込められた思いを聞いたとき、秋本氏の40年の喜びと苦悩を感じずにいられなかった。

 自身の作った「両津勘吉」というキャラクターが40年愛され続けたことは、漫画家としてこの上ない幸せだったはずだ。だが一方で、あふれるアイデアを漫画にする欲求を、抑え続けた40年でもあったのかもしれない。

 こち亀の週刊連載と並行して数多くの読み切りを発表してはきた。だが、ある程度まとまったボリュームのある連載でしか描けない物語もある。

 週刊や月刊の漫画連載は激務だ。取材では「連載を持ちながら、別のものを描くって大変。連載を1つ終えて、次の連載というのが普通ですが、時間が経てばモチベーションも落ちるし、他に描きたいものもできる。描きたい時が描き時だと思って4作描くことにした」と話した。

 普通に新作の連載を始めたのでは、また同じジレンマを抱えることになる。そこで考えたのが「シリーズ連載」ということらしい。週刊、月刊、月2回刊などの各誌に、不定期に作品を発表して連載していく形。「これなら僕のようなベテランも体力的にもつし、アイデアも練れる」。“漫画を描きたくて描きたくて仕方ない”という気持ちがビンビン伝わってきた。40年の連載を終え、今月11日に64歳となる漫画家とは思えない熱量だった。

 4作全て女性が主人公なのも話題になっている。秋本氏は「中年男の両さんを描き続けた反動じゃないですよ」と笑顔で語ったが、女性主人公を描きたい気持ちは強かったとみえる。

 「デビュー当初は女性キャラを描くのが得意ではなかった」という。だが「こち亀は漫画の実験場。女性キャラを迷いながら描いていたが、強い女性キャラを登場させたら、読者の反応がすごかった」そうだ。ギャグ、人情もの、マニアックな趣味や流行の解説、など何でもありのこち亀だったが、自身を成長させた漫画でもあったのだろう。

 新作は、ガンアクション、人情もの、ギャグなど、こち亀で読者を楽しませてくれた秋本氏らしい魅力を感じさせる。

 だが、これまでの秋本氏にない世界を感じる作品もある。来年2月2日発売のヤングジャンプから連載の「ファインダー―京都女学院物語―」だ。京都の高校でカメラ部に所属する女子の物語。秋本氏いわく「ラブ抜きの少女漫画」。女子高生の日常を描くという。

 実はデビュー前からの「少女漫画好き」。少女漫画タッチの絵を描くことはあったが、どんな世界を描くか楽しみだ。

 舞台は京都府亀岡市。秋本氏は、ここに“亀有”を重ねているようでもある。京都の中心部からそう遠くはないが、のどかな町の雰囲気が気に入った様子。「京都に近いんだけど、亀岡には映画館がない。(全国チェーンでない)地元のお店ばかりでローカルな感じもいい」と話した。

 思えばこち亀では、亀有や下町を「東京に近いが“おしゃれで最先端”とは遠い場所」として描き、身近で生き生きとした魅力を全国区にしてしまった。「亀岡をクローズアップしたいと思っています」というから、亀岡も全国区の町になるかもしれない。

 週刊連載40年という大偉業を成し遂げた秋本氏だが、考えてみれば週刊連載を1つ終えたばかりの作家でもある。創作意欲は、まだ新人のようにフレッシュなのかもしれない。(記者コラム)

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