氷川きよし 新境地本格バラード第2弾は「実体験」失恋ソング

[ 2016年11月15日 10:00 ]

デビュー16年で初めて本格ラブバラードに挑戦している氷川きよし。自身の実体験を基にした失恋ソングを歌い上げる

 演歌歌手の氷川きよし(39)がデビュー16年で初めて本格的なラブバラードに挑戦し、話題になっている。9月に発売したシングルに続き、来月発売するアルバムにも収録。自身の恋愛を歌にしており「当時は切なくて死にたいとさえ思った」と言う。演歌界の貴公子が初めて告白した失恋体験。恋に夢中になった切ない“男心”を聞いた。

 氷川には今も忘れられない人がいる。「細かいことは言えません」としたが、思い出はその人と過ごしたクリスマスだ。その季節を迎えると胸が締め付けられる。

 「僕は恋愛そのものが受け身。傷つきたくないから待つタイプ。相手に好きな人がいれば入っていけないし、奪うことなんてできない。片思いばっかりで、結局は苦しい思いをしちゃう」

 好きな人ができても、思いを伝えずにジッと待ち、相手が振り向いてくれるかをうかがう。その恋が実ることはほとんどない。それでも「結ばれないところに美しさがある」と前を向く。切ない失恋の繰り返しが、氷川を大きく太くする。

 「いっぱい失恋して、それをバネに成長できる。やっぱり苦しい思いをするっていうのは大事。全部が糧になってる。人生には無駄がないなって思う」

 そんな氷川の恋が実り、象徴的な思い出がクリスマスだった。その人と別れ、翌年に一人で過ごした聖夜の苦しみを歌にした新曲が「君がいないクリスマス」。来月14日発売のアルバム「新・演歌名曲コレクション4―きよしの日本全国 歌の渡り鳥―」に収録する。作詞家に当時の思いを細かく伝え、リアルな失恋ソングに仕上げた。

 「実体験なんです。前の年のクリスマスにはあれだけ愛し合ったのに、次の年は相手に恋人ができて一緒にいられなかった。僕自身、周りのクリスマスの雰囲気につられて変に敏感になっていたのもあって、切なくて死にたい、消えてしまいたいって思った」

 聖夜に同じ思いをしている人たちと気持ちを分かち合いたいと、初めて実体験を歌にしてみようと思い立った。

 ミュージックビデオの制作にも全力を注いだ。激情家の一面をさらけ出すため、絶望に打ちひしがれた表情で叫ぶように歌った。撮影スタジオは自分でインターネットを使って選び、高校で学んだインテリアデザインの経験を生かしてスタジオ内の家具の配置も変えた。今月は1日あるかないかの休日を返上して編集作業にも立ち合った。

 そもそも演歌ではなく、バラードで歌おうと思ったきっかけは、9月に発売したシングルのカップリング曲「Jewel」だった。自身初のバラードだったが「ステージで歌うと拍手の数、反応が凄い。ああ伝わっているなと凄く実感した」という。「もっと伝わる音楽を届けていきたい」との思いから自ら“悲恋”を歌うことにした。

 「Jewel」のミュージックビデオも新たに作った。実体験を基にした映像で、氷川が幸せそうにキッチンで恋人のために朝食を作る。悲劇的な「君がいないクリスマス」とは対照的で「幸せと絶望。僕の恋愛観の一、二面でもある」。恋人のためにかいがいしく料理を作る姿も、恋人と別れてこの世の終わりを嘆くように叫ぶ表情も、どちらも素顔の氷川だ。赤裸々に“カミングアウト”することでファンをドキドキさせ、自分自身も喜びを得る。

 「今は恋をしている?」と聞くと、「十分しています」とはっきり言った。「えっ誰と?」と驚くと「歌です。自分自身が発信している歌に恋をしているんです」と答えた。言葉では何かをぼやかしているように聞こえるが、これは本音だろう。いくつもの恋をしてきたからこそ、自身の歌声が憂いをたたえ、歌の世界に色気が増してきたと実感している。今も心に刻まれる本気の恋があったからこそ到達した境地。そう、今の氷川は“恋歌”に夢中なのだ。

 来年、不惑を迎える。少年のようなあどけなさを残して22歳でデビューした貴公子は、どんな40代になりたいのだろうか。

 「律儀な男って素敵ですよね。誠実で、世話になった人に感謝している男って凄いなと思う。義理と人情を大切にする生き方。惚(ほ)れちゃいますね。自分もそういう男になりたい」

 誰もが惚れる男になるために誠実に“男心”を歌っていく。

 ◆氷川 きよし(ひかわ・きよし)本名山田清志。1977年(昭52)9月6日、福岡県生まれの39歳。00年2月に「箱根八里の半次郎」でデビュー。芸名の名付け親はビートたけし。06年に「一剣」で日本レコード大賞を受賞。ほかに「きよしのズンドコ節」(02年)などがヒット。08年には紅白歌合戦で大トリを務めた。1メートル78。血液型A。

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