古舘伊知郎 進む道は「ニッチ」デジタル時代に反旗でバラエティー界に新風

[ 2016年11月9日 08:01 ]

古舘伊知郎インタビュー(下)

TBSで13年ぶりに司会を務める古舘伊知郎(C)TBS

 フリーアナウンサーの古舘伊知郎(61)がTBSで13年ぶりに司会を務める。9日放送の特番「古舘がニュースでは聞けなかった10大質問!!だから直接聞いてみた」(後7・56)。今年3月31日に12年間務めたテレビ朝日「報道ステーション」のキャスターを卒業し、バラエティーの世界に華麗に舞い戻った。衰え知らずのマシンガントーク、さらに磨きのかかった話術が絶賛される古舘に、TBSの思い出やバラエティー番組の行方を聞いた。

 6月1日に東京都内でトークライブを開催して再始動した後、数々のテレビ番組に出演。12年ぶりのバラエティーの世界に何を感じたのか。今のバラエティー番組に必要なことは何なのか。

 「ひな形は何一つ、ありません。正直に言えば『バラエティー番組かくありき』なんていう生意気な気持ちも発想も想像力もありません」と前置きした上で「ただ、ここ数カ月で強烈に思うことは『私、テレビなんか見ない人だから』『僕、テレビ見ない人じゃないですか』と言う人が多い。そういう人に物申したい。おもしろい番組はある。自分の感受性が鈍麻し、見つけようという意識もないから、テレビはつまらないと言っているだけなんです。おもしろい番組は視聴率もいい。それこそがバラエティーのひな形。これはもう、僕がタッチできる世界じゃありません。既におもしろいんだから」

 一方、視聴者の性別や年齢、志向、曜日や時間帯などを徹底的にマーケティングした番組は「どうも似てくるんです。どこ見ても一緒というバラエティーが存在する。どうすれば、ザッピングしないで見てもらえるか。マーケティングを極めれば、どうしたって似通った内容になります」と分析。「そういうものの一角で、僕はちょっと風変わりな番組をやりたい。これしかありません」と進むべき道を見いだす。

 「その風変わりとは何かと言えば、人気司会者がいて素晴らしいVTRを作る名ディレクターがいて…という完成された番組でもなく、マーケティングが行き届いている似通った番組でもなく、60過ぎてバラエティーに戻ってきたということはニッチです。隙間産業。隙間があれば、そこでやりたいと思うのは、今のデジタルな時代に逆行するようなアナログ的な番組です」

 今回の特番がまさにそれ。2020年東京五輪や限界集落などの現代ニッポンが抱える問題から「七味唐辛子の缶の出口はどうしてあんなに分かりにくいのか?」などの素朴な疑問までを取り上げ、当事者にぶつける。

 「スマホで一発、検索エンジンにかければ、立ちどころに自分の疑問や謎に対する答えが出てくるスピーディーな時代に、僕は反旗を翻したいんです。もちろん便利で、僕も使うことはありますが、スマホで答えを出すことは“学び”じゃない。疑問や謎を脳内で熟成させて、5年後とかに古本屋で答えに出会ったりする。僕はそれが“学び”の瞬間だと思うんです。もっとゆったりと、疑問は疑問のまま空白の時間をつくる。正解めいたものにたどり着いたとしても『これが正解か?』とクエスチョンを置いた方がいい。世の中、すぐに答えが出るわけがないんだから。そういう意味で、今回の番組もちゃんとした答えの出ない疑問がいくつもありました。その点で、僕は手応えを感じています。二者択一を迫る今の世の中で、正解もありません、誤答もありません、そもそも答えがありません。それでも、そういう疑問や謎に踏み込んでみたい。そういう番組をやりたいと思います」と熱っぽく持論を展開した。

 バラエティー界の隙間を縫う古舘のアナログさがテレビ界に新風を吹き込む。

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2016年11月9日のニュース