小林賢太郎のコント創作術「0→0・1」の努力重ね…裏方困る→発明へ

[ 2016年6月25日 10:00 ]

「小林賢太郎テレビ8」で7年ぶりに共演するラーメンズの小林賢太郎(上)と片桐仁(C)NHK

「小林賢太郎テレビ8」小澤寛プロデューサーに聞く(下)

 舞台を中心に活躍し、新しい形の笑いを追求しているお笑いグループ「ラーメンズ」の小林賢太郎(43)が年に1回、テレビで新作コントを発表する「小林賢太郎テレビ」。その第8弾「小林賢太郎テレビ8~wonderland~」が26日午後10時からNHK BSプレミアムで放送される。今回は、TBS日曜劇場「99・9―刑事専門弁護士―」の好演が記憶に新しい相方・片桐仁(42)が初登場。それぞれのソロ活動が増えたため、2人の共演は2009年の舞台「TOWER」以来7年ぶり。第1弾(09年)から番組の演出を手掛けるNHKエンタープライズの小澤寛プロデューサーが企画意図、制作過程など“裏側”を語った。

 「ラーメンズ」は1996年に多摩美術大学版画科の同級生だった2人が結成。99年に始まったNHK「爆笑オンエアバトル」に出演。“片桐”という謎の生物について講義を繰り広げる「現代片桐概論」など、シュールなネタで知名度を上げた。

 98年から17回を重ねた本公演(舞台)は毎回、チケット入手困難。47都道府県を題材にした「不思議の国のニポン」(第15回公演「ALICE」)に代表されるような言葉遊びや知的センスあふれるコントをはじめ、時にミステリーがかり、時に手品のようなトリックもある数々のネタは、シンプルな舞台美術とモノトーンの衣装&裸足というスタイリッシュなビジュアルも重なり、唯一無二の世界観と存在感。テレビにほとんど出演しない分、カリスマ的な人気を誇る。

 第17回公演「TOWER」以降、小林はソロ公演「POTSUNEN」シリーズや演劇プロデュース公演「KKP」シリーズなど、精力的に活動。その作風は「アート」と称され、欧州など海外からも高く評価される。片桐は俳優としてテレビドラマや舞台に引く手あまたとなった。

 今回の「小林賢太郎テレビ8」は小林、片桐、北海道発の演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーとしても知られる俳優・大泉洋(43)の3人を中心に、小林の舞台作品でおなじみの竹井亮介(44)辻本耕志(39)久ヶ沢徹(52)、そして番組5作目から出演している劇団「ナイロン100℃」の看板女優・犬山イヌコが脇を固める。

 番組が生まれたのは、小澤プロデューサーがラーメンズの第16回公演「TEXT」(07年)放送の窓口を務めたことが縁。スタッフ間で「小林さんにコント番組を作ってもらえたら、いいよね」と話していたところ、ちょうど小林もテレビでしか表現できない笑いを作りたいと考えていた時期で、双方の思いが合致した。

 今年の放送は年明けに決まり、制作スタート。構想を練り、4月から台本作りを開始。5月上旬にリハーサル(1日間)、中旬にロケ(2日間)&スタジオ撮影(3日間)。最後に恒例の「お題コント」密着ドキュメンタリー(3日間)、そして本編中にCMのように挟み込まれるジングルの撮影(1日間)。5月最終日にクランクアップし、ほぼ例年通りのスケジュールで撮り終えた。

 第5作(13年)から第7作(15年)はミニドラマ4本を軸に、合間にコントが入る構成を確立。メリハリのある作りで、番組の完成形と思われたが、小澤プロデューサーは今作の「8」について「ドラマとコントの境界線がはっきりしなくなります。せっかく作った『ドラマ+コント』の方程式を1回捨てました。ドラマのようでもあり、コントのようでもある。言ってみれば『ドラマ×コント』。足していたものを掛けてみた。今まで7回やってきた試行錯誤の結果が、この『8』に全部出た集大成になっていると思います。サブタイトルの『wonderland』が象徴していますが、今までで一番、不思議な作品になっていると思います」と説明。手応えを感じている。

 稀代のコント師との番組作りは「毎回、小林さんのアイデアを聞いて、スタッフ全員が困るところから、いつも始まるんです」。難しさを伴うが、その分、やり甲斐がある。誰も見たことがない、やったことがないアイデアをどのように具現化するか。「“作り方を作る作業”がすごくあるので」。数学で言えば、公式を用いて答えを導く前に、まず、その公式を編み出すところから始まるようなものか。

 例えば、第6作のカラオケビデオ風コント「斜めのバーテンダー」。バーのセットを斜めに組み、カメラも斜めにして撮影するという前代未聞の作品だが「まず斜めにセットを組んだことがある大道具さんもデザイナーさんもいません。『カウンターに置いたグラスがスーッと滑っていく角度』といっても、それは何度なんだと。何度が一番いいか、実験するところから始まります。それに、斜めにセットを組んで強度は大丈夫なのか。カメラを斜めにして倒れないのか。斜めに組んだセットの高い方が天井にぶつかっちゃうよとか。1つ1つシミュレーションして、最適な選択肢を選び、課題をクリアしていきます」。従来にないチャレンジを重ねてきた。

 このこだわりは何なのか。「何が言いたいかというと『発明がないと意味がない』ということなんです。この番組の一貫したテーマは『誰も見たことがない笑いを作ること。コントの豊かな可能性を視聴者に感じてもらうこと』だと、私は思っています。斜めのセットを作ったことも、私が小林さんに『第6作は、バーや教室、時代劇セットなど具象セットを使ったコントをなるべく多くする』というお題を出したところ、セットを使うなら、セットでしかできないことを発明しないと意味がない。じゃあ、斜めにできないか?という流れでした」

 「今回のサブタイトルは『wonderland』ですから、作品中に驚くようなことが次々起こる。それはもう、たくさん困りました(笑い)。でも番組スタッフは、困ることも含めて、おもしろがってくれる人たちが集まってくれているので、アイデアを出し合い、1つ1つシミュレーションをしてクリアしました。長さ8メートルのテーブルでテーブルクロス引きをするシーンがあるんですが、それはもう美術チームが頑張ってくれました。本当に感謝しています。美術はもちろん、一番大事な笑いの種類という点においても、ドラマ、コントというジャンルが混ざり合う今回は、新しい発明ができたのでは思っています」。未開の地を進む自負がにじむ。

 小林が最も大事にするのも「新しい笑いの仕組みをどう発明するか」で「彼は骨組みとか土台という言い方をしますが、大事なのはそうやって発明した仕組み同士を組み合わせて、一番シンプルで強度が高く美しい骨組みを作ること。壁紙とも言える笑いのセリフを書くのは一番最後なんです。だからこそ、小林さんのコントは、経験したことがない強烈な印象を見る人にもたらすし、月日がたっても色あせないのだと思います」と創作手法の一端を披露した。

 最後に、8年間タッグを組む小林の魅力について聞くと「側で見ていて思うのは、決して天才ではなく努力の人だということ。8年前のインタビューでも言っていましたが『0から1は作れないが、0から0・1は作れる。その作業を10回やれば1に、100回やれば10になる。ひたすら、その作業を繰り返している』。眠っている時以外は、ずっとコントのことを考えているんじゃないんですか。一緒に食事をしていても、次のコントのことが常に頭の中にあって。突然、ふと『あっ、思い付いた』と。『今、私の話、聞いてました?』と思うこともあります」と笑いながら明かした。

 【小林賢太郎テレビ8】東京であった仕事を終え、地元に帰るべく新幹線に乗り込んだ1人の男(大泉)。目を覚ますと、新幹線に1人きり。長いトンネルの中を走り続ける新幹線の中で、男は不思議な出来事に次々と遭遇する。奇妙な映像が流れる車内モニター。形を変える新幹線。扉の鍵穴ごしに見える劇場の舞台。そして、次々に現われる不思議な登場人物たち。誰も見たことがない笑いの世界――。番組から与えられたお題を基に、3日間でコントを1本作る恒例「お題コント」コーナーも。

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