震災5年 ドキュメンタリー映画に見た福島県農家の“現実”とは

[ 2016年3月29日 16:35 ]

 東日本大震災と原発事故後に苦境に立たされた福島県の農家の現実に迫ったドキュメンタリー映画「大地を受け継ぐ」(監督井上淳一)を鑑賞するため、東京・中野のポレポレ東中野に足を運んだ。

 震災から5年。友人、知人がいる福島県を毎年、プライベートで訪ねているが、作品を見て、あらためて、そこで実際に暮らしている人々の“現実”を目の当たりにした気がした。

 原発事故から2週間後に、農作物出荷停止のファクスを受け取った福島県須賀川市の農家の男性は、長男に「お前に農業を勧めたのは間違っていたかもしれない」と告げた後、自ら命を絶った。その後、長男は母とともに父から受け継いだ土地で農業を続けてきた。作品は、そんな農家のもとを都内の若者たちが訪れた映画はシーンから始まった。

 スクリーンに映し出される、4年間の葛藤と決意を語り続ける長男と、その隣に座った母親。そして、周りに話を聞く若者たち。コメントや解説はほとんどなかった。だが、長男、母親の重い語りから「農家にとって原発事故の影響がまだまだ続く」ということをあらためて感じさせれた。

 福島県の農産物には依然として原発事故の風評が暗い影を落としている。千葉県船橋市の卸売業の男性(47)から「福島県産は、かなり売れ残っている。価格が安くても売れ残っているんだ。生産者の足元を見て、買い叩く業者もいる」という言葉を聞いた。

 3月上旬、震災前に高校の教員を定年退職し、有機米づくりを始めた知人男性(65)と話す機会があった。男性によると、有機米は通常より高い卸値がつくが、販売不振で値段は一般米と同じ。「生産する気力がなくなり、東京電力の損害賠償に頼っている人もいる。頼れる人はまだいい方で、すずめの涙ほどの賠償金しかもらえていない人もいる」と明かした。全量全袋検査が行われるコメをはじめ、福島県産品は検査で安全性を確認した上で出荷されているが、販売不振が収まる気配はないという。

 福島県の農業は現在、新たな商品やイベントで地域に新風を吹き込もうとしているが、復活にはまだまだ遠い状況。知人男性の「目の前で農産物を捨てた人がいる。食べてくれとは言わないが、イメージだけで判断するのはやめてほしい」という言葉が胸に響いた。

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2016年3月29日のニュース