安保論戦 怒りより呆れる美輪明宏「アベノミクスに騙されたわね」

[ 2015年7月29日 10:50 ]

不思議な力で周囲を幸せにするで“ミワ様”美輪明宏

 この数カ月、美輪明宏は怒りを通り越して呆れて果てている。何に対してか?もちろん、国会での安保論戦についてである。参院では審議入りしたばかりだが、先の衆院ではヤジや怒声が飛び交う中、与党が強行採決してしまった。「こうなることは去年の夏、安倍内閣が憲法解釈変更の閣議決定をした時から分かっていたはずでしょう。本来ならあの時、もっときちんと問題にすべきだったのです」

 まさにその通り。1年前、新聞、テレビなどの主要メディアは閣議決定の事実だけは報道していたが、それよりも何よりも「アベノミクス、アベノミクス」のオンパレードだった。私は当時、誰よりもミワ様がこの閣議決定の重大な意味をことあるごとに口にしていたことを覚えている。確かに景気回復は大切だが、国民はそればかりに気を取られ大切なことを見失っていなかったか。

 昨年12月の総選挙も同じ。「これで自民党が勝てば安倍首相は必ず憲法改正に動きますよ。みなさんがそれに気づくかしら」。投票前、ミワ様は何度も警告をならしていた。ところが、メディアはこの時も最大の争点に経済問題を掲げ、有権者も「株価上昇、賃金アップ」ばかりに目を奪われていた。自民党圧勝を受け、暮れも押し詰まった頃だったと思う。連載の打ち合わせで顔を合わせると、「大変なことになったわね。アベノミクスに騙されたわね」と話していた。

 ミワ様のすごさは、その幅広い知識と鋭い洞察力である。知識量が豊富なだけなら、ただの物知りだが、それプラス並外れた閃(ひらめ)きのようなものがある。忙しい合間を縫って、新聞、週刊誌、興味を持ったありとあらゆるジャンルの本を読む。もちろん、時間の許す限り報道番組、バラエティーも観る。「情報は最初、点になって入って来るけど、それがいつの間にか線になるのです。何の関係もなさそうなことが意外なところでつながることがあるのよね」。物事は俯瞰して見ると意外なことが見えてくるといつも話している。

 そう言えば、ミワ様と仕事のお付き合いを始めてもうすぐ丸10年。忘れもしない初対面は05年9月、場所は恒例の「音楽会」を開催中の渋谷のパルコ劇場の楽屋だった。その年の3月に担当していた歌舞伎の中村勘三郎さんの連載が終わった私は、ちょうど次の企画を探していた時期だった。テレビ朝日「オーラの泉」が大人気。友人から「美輪さんがいいよ」と勧められ、事務所に連絡すると「受けるか受けないかは本人が決めますから、楽屋を訪ねてみてください」と言われたのだ。

 「失礼します!スポーツ紙ですが連載をお願いで出来ませんでしょうか」と私がその旨を伝えると、ミワ様はしばし無言。なにやら私の肩の辺りをじっと見つめていた。あくまでもこちらからは、そう見えた。数秒後、「分かりました。お引き受けいたしましょう」。後日、友人にこの経緯を話したところ、「きっと何か見えてたんだよ。それで何かピンと来たんだね」。果たしてその時、ミワ様にどんな閃きがあったのか、私はまだ聞いていない。(川田 一美津)

続きを表示

2015年7月29日のニュース