綾野剛 自分の嗅覚信じた、面白くなるなら手段は選ばず

[ 2015年1月21日 05:30 ]

毎日映画コンクール男優主演賞を受賞した綾野剛。クールな表情とは裏腹の熱い演技が評価された

2014年(第69回)毎日映画コンクール 男優主演賞

 2014年(第69回)毎日映画コンクールは、父娘の禁断の愛というタブーに切り込んだ熊切和嘉監督(40)の「私の男」が日本映画大賞に輝いた。女優主演賞には「0・5ミリ」の安藤サクラ(28)、男優主演賞には「そこのみにて光輝く」の綾野剛(32)がそれぞれ初受賞。「そこのみにて…」は日本映画優秀賞など4部門を制した。田中絹代賞には鈴木京香(46)が選ばれた。

 台本を3行読んだだけで出演を決めたという。

 「僕の役も登場していない段階ですけど。なにか風が吹いて、匂いがしたんです。ずっと嗅いでいられないような匂い。勘を信用してもいいと思った」

 自分の嗅覚を信じ、作品の中に溶け込んだ綾野。「そこのみにて光輝く」で、鬱屈(うっくつ)した若者の胸の内を見事に表現し、堂々の主演賞だ。

 演じた達夫は、仮釈放中の拓児(菅田将暉)とパチンコ店で出会い、その姉の千夏(池脇)の愛にすがる。セリフは少なく、ストーリーを動かしていくのは池脇と菅田ら共演者。「僕はあくまで受ける作業。感情を思い切り前に出すわけでもないので、評価しにくい芝居の質だったと思う。だからこの賞は、寛大な評価だとうれしく思う」

 徹底的な役作り。「自分の環境と違いすぎるから、とことん落とそうとした」と明かし、達夫がどう生きているのかを体に叩き込んだ。安宿の部屋を散らかし、映画の舞台となった函館の街を毎晩飲み歩いた。撮影はノーメークで臨み、汗も全て本物。時には酒を飲んで芝居をした。

 作品に臨むに当たり、スタイルを変えるのが綾野流。「面白くない作品なんてない。そこに生きる役があるなら生きるべきだと思う。どんな作品でも、みんなが何かを作ろうとしている思いは一緒ですから。面白くなるなら手段は選ばない」

 クールな印象とは真逆で、とにかく熱っぽく語る。質問するタイミングを逸してしまうくらい、よくしゃべる。真剣な表情を見ていて、「しっかりした役者論を持ってるんですね」と感心していると、「いや、役者論なんて、そんな大したものじゃないです」と照れまくった。

 作品に向かう真しな姿勢。静ひつな中に芯のある演技が見る者の胸を震わせた。綾野剛、恐るべし。

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2015年1月21日のニュース