プロデューサーが伝授 仕事で使える“半沢流”3つのキーワード

[ 2013年12月23日 09:19 ]

頭取にまさかの「出向」を言い渡される半沢直樹

 最終回で平均視聴率42・2%を記録し、今世紀No・1ヒットドラマとなったTBS「半沢直樹」。上司との対立もいとわない姿勢がサラリーマンの支持を集め、ちまたでは「倍返しだ!」のセリフがあふれた。作品を手がけた伊與田(いよだ)英徳プロデューサー(46)に聞いたヒットのキーワードを、ドラマの名場面とともに振り返る。新たな年を迎えるサラリーマンにとって、仕事で「倍返し」を果たすヒントになりそうだ。

 【キーワード1=自分が面白いと思ったものを相手に出せ】

 「半沢直樹」は堺雅人(40)主演で、銀行を舞台にした男社会のドラマ。キャスティングは昨今のドラマの常連俳優や人気アイドルではなく、歌舞伎俳優の片岡愛之助(41)や舞台で活躍する石丸幹二(48)、元ビシバシステムの緋田康人(49)ら役柄に合う人材をさまざまな分野から幅広く登用した。放送前は地味な印象もあったが、フタを開けてみると、そこに視聴者が食いついた。

 伊與田氏は「原作を読んで面白かったことをいかに伝えるか、そのためにはどうしたらよいかというのが基本」と言う。特に「半沢」では「この人がいると華やかだからとか、数字の匂いがするというようなことは考えなかった。自分たちがちゃんと面白いと思ったものを作ろう、納得したものを作ろうと原点に戻った」と強調した。

 ドラマを手掛けた福澤克雄監督は常々「自分がおいしいと思わないものを“これ不味(まず)いよ、どうぞ”とは言えない」と言っていた。その言葉を信条に「半沢」を作った結果、歴史的な大ヒットを記録したことに「料理人として、もうけようと思わなかったのが良かったのかも」と2人で勝因を分析したという。

 もうけることよりも、自分たちが納得できる“おいしいもの”を作ることを追求したことが成功に結びついたのだ。

 【キーワード2=裏まで見られても自信のあるものを作れ】

 ドラマでは、主人公以外の脇役にスポットがあたったり、上戸彩(28)演じる半沢の妻・花の良妻ぶりがさまざまなメディアで特集されたりした。さらには、半沢家の毎日の献立までも「品数多く野菜たっぷりの愛情料理」と注目を浴びた。

 視聴率や「倍返し」のセリフとともに、意外なところでモンスター的に広がりを見せた作品だったが、想定外はなかったのか。伊與田氏は「それぞれのエキスパートが集まり、どこに光をあてられても恥ずかしくない。机の裏側を見られても、なにも焦ることはなく“どうぞ、見てください”と自信を持っていた」と胸を張る。

 例えば、銀行内のシーンが多く、背景はほぼ「壁」。そのひとつひとつの壁も単調にならないように美術や撮影のスタッフが工夫を凝らした。いかにも銀行にあるようなポスターや書類を美術が制作。4Kテレビでも見えないような掲示物にも「東京中央銀行」などの文字が入っている。そして、それらのポスターや書類が映像に入り込むように撮影し、メリハリをつけた。伊與田氏は「スタッフに本当に恵まれた」と語る。

 そんなヒットメーカーも「あ、ただ一つ想定外はまんじゅうだ」と笑った。「あんなに売れるとは…。ぼくらも買えなかったんです」と、購入に2時間並ぶブームとなった「倍返し饅頭(まんじゅう)」に目を丸くしていた。

 【キーワード3=スケベるな】

 初回19・4%からぐんぐん上がった視聴率。あまりの好調さに浮足立つことはなかったか。

 伊與田氏は「そりゃあ、本当はちょっとスケベりたく(スケベ心を出したく)なるんですよ。女性を引きつけるために、恋愛とか不倫とか付け足したくなるとか」とテレビマンの欲もちらり。しかし「でも“いかん、いかん、ここでスケベると視聴者を裏切る”と。最初から見てくれたお客さんのために気を引き締めて、悪い上司をやっつけることに終始した」という。

 番組スタッフも「視聴率が上がっても現場はピリっとしていました。決して浮かれることなく、主演の堺さんが引っ張っていた」と語る。当初の「原作のおもしろさを表現する」という原点を大切に男の世界を描ききった。

 大ヒット作品を手がけた伊與田氏。いわば、5億円の融資を回収し、120億円の損失を穴埋めした半沢直樹と同じで大成功。

 しかし、その心境は「視聴率が高いと楽な戦いかと思ったら、どんどんそのプレッシャーが強くなった。次も“半沢の伊與田です”とは言いたくないので、またゼロからやるしかない。なんなら、出向してゼロから頑張りますか」。

 成功しても終わりじゃない。次の仕事が待っている。

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