締め切りに一度も遅れず 食への渇望から生まれた名作、根底には愛

[ 2013年10月16日 09:45 ]

07年2月、米寿を祝う会でろうそくの火を消すやなせたかしさん

やなせたかしさん死去

 現役最高齢の漫画家として創作活動を続けたやなせさん。絵本「アンパンマン」シリーズを73年から発行しているフレーベル館の天野誠氏は「やなせ先生の凄かったのは、締め切りに一度も遅れたことがなかったところ」と説明。「一度もないのは、やなせ先生だけ。手術を受ける時も2、3カ月先の作品を仕上げてくださった」と約40年間、変わらなかったプロ意識の高さを称えた。

 一方、アニメシリーズを手掛ける日本テレビの中谷敏夫プロデューサーは「アニメ製作にも熱意を持ってくれた。毎回、試写をしてくれたのは先生だけでした」としのんだ。

 あふれる創作意欲と発想力に触れたのが、やなせさんが76歳の時。「牛丼を食べたことがない」と話したため、牛丼チェーンに一緒に行ったという。牛丼をペロリとたいらげた、やなせ氏が着目したのは容器にフタがないこと。「牛丼というのは庶民の食い物なんだな」と印象を語り、その場でアンパンマンの登場キャラクター「ぎゅうどんまん」を生み出した。フタがついている「うなどんまん」や「てんどんまん」などに対し、フタのない「ぎゅうどんまん」は着ている服も内面も庶民的なキャラクターとして親しまれる。

 中谷氏は「やなせ先生の戦争体験を基にした食への渇望から生まれたのがアンパンマン。ひもじい人に食べ物をあげる行為こそ不変の正義という信念で物語を作り、根底には愛や優しさが流れていた」と指摘する。

 やなせさんは詩人としても活動。ミミズやオケラなどを“友達”と歌った「手のひらを太陽に」の作詞でも知られる。また03年には84歳で歌手デビューし、同曲を収録したアルバム「ノスタル爺さん」をリリースしている。

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2013年10月16日のニュース