倉本聡さんが新作劇「福島の声なき声を伝えたかった」

[ 2013年7月26日 15:07 ]

 脚本家倉本聡さん(78)が率いる劇団「富良野GROUP」が来月、新作劇「夜想曲―ノクターン」を北海道富良野市の劇場で上演する。東京電力福島第1原発事故で一部が依然、避難区域になっている福島県南相馬市周辺が舞台。「風化していく福島の声なき声を伝えたかった」と、思いを語った。

 新作劇は、東日本大震災の津波で流された2人の娘を捜し続ける男性が、手足が壊れたピエロの彫刻を直す女性と出会うという展開。互いの体験を話すうち、彫刻が原発事故後の福島の人たちの思いを語りだす。

 「誰も耳を傾けないから、福島の人たちは言いたいことが言えないでいる。苦しみや無言の怒りが沈殿している。それを(本来はしゃべらない)ピエロに代弁させた。声なき声を聴かせるのに使った」

 東日本大震災の後、何度も福島に足を運び、南相馬市在住の詩人若松丈太郎さん(78)を知った。約20年前、チェルノブイリ原発事故を詠んだ作品では、危険地帯とされた広さを福島原発を中心に当てはめ、対象となる町や村を列挙していた。「詩に書かれたことが実際に起こった。予言の書だった」と衝撃を受け、劇でも紹介する。

 南相馬市原町区の海岸の砂を掘って津波で流された家族を捜す男性に出会ったのもきっかけ。「ことしは休む予定だったが、急に創意が湧いた。だから実験的に舞台をやろうと決めた」。これまでは1作品を1~3カ月かけて上演していたが、今回の舞台は富良野での3日間だけとした。

 また長期にわたって稽古を有料で公開し、その場で脚本が書き換えられていく様子を見せる。「芝居は参加してつくる喜びの方が見る喜びの数百倍もある。創作の過程を知ってほしい」と倉本さん。

 テレビドラマに比べると目にする人数は減るが、富良野の劇場には山口や鹿児島などからもファンが訪れる。「たとえシェアする人が少なくても表現するものはしなくてはいけないという使命感でやっている。遠くから来た人たちが地元に呼びたいとなって広がればいい」としている。

 本番は8月10~12日、富良野演劇工場で。再来年には被災地を回る予定という。「2年後はもっと風化していると思う。まだ(自分が)生きているかは分からないけど」。福島の人たちの思いを伝え続ける。

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2013年7月26日のニュース