紅白でメッセージ発信 箭内道彦氏 支援活動は「福島の広告」

[ 2012年3月9日 10:20 ]

昨年9月に「LIVE福島 風とロックSUPER野馬追」出演した猪苗代湖ズの箭内道彦氏(右)(撮影・石井麻木)

 福島県郡山市出身のクリエーティブ・ディレクター、箭内道彦氏(47)は自身の復興支援活動を「福島の広告」と表現する。

 福島県出身のミュージシャンで結成されたロックバンド「猪苗代湖ズ」の一員として昨年末NHK紅白歌合戦に出演。「何も終わっていない」というメッセージを発信した。「日本で最も影響力のある番組。その中で話すチャンスは限られている。あの時間の短さでどうしたら伝えられるかということと、福島の人たちに心強いと思っていただけるという意味で、僕はある種(紅白を)広告のメディアにした」

 同9月に県内6カ所で開催した野外ライブイベント「LIVE福島 風とロックSUPER野馬追」も箭内氏が広告業界で築いた財産を最大限に生かした企画だった。

 福島は今「疲れてきている」という。津波、原発、風評…。復興への道のりは依然険しい。「(震災から1年がたって)生活に慣れてくると逆にどんどんつらくなってくる。乗り越えるためにつらさに慣れた人もいれば、つらさを思い出してどんどんつらくなる人もいる」。県内に住み続ける人と避難した人との言い争いに対しては「親族同士で争うようなもの。そんな場合じゃない」と言葉に悔しさがにじむ。

 「広告は人と人をつないで、広げていくこと。これまで培ってきた仕事は福島の役に立つよう準備させられていたんだと思う」。こう感じるきっかけになったのは、自身がプロデュースする男性歌手高橋優(28)が2年前に作った曲「福笑い」だった。震災後にラジオのリスナーから「心がやすらぐ」と問い合わせが相次ぎ、全国で1643回オンエアされた。11年上半期に全国のFM、AMで流れた曲の中でオンエア回数1位になった。猪苗代湖ズにしてもLIVE福島にしても震災前から立ち上げたものだ。「やってきたこと全てが今につながっている。無駄なことはなかったんだと思える」

 「遠慮深い県民性が自分の中にもあって嫌だった」と5年ほど前から「福島嫌い」を公言してきた。「今でも嫌いなところはある」と笑うが、その価値観を受け入れ「福島と結婚する」と一生支援し続けることを県民に約束している。

 今年は一丸となって一歩踏み出すための大切な年と位置づけ「エンターテインメントの出番」だと強調する。「(震災の記憶を)風化させないためにも全国と福島を結びつける」ことを念頭に置き、映画「誰も知らない」などで知られる是枝裕和監督に「LIVE福島」のドキュメンタリー化を依頼。今秋公開を目指している。

 また、今年の「LIVE福島」を全国で開催する案もある。沖縄、長崎、広島、神戸、福島、北海道とこれまで日本人が困難と向き合ってきた場所を巡る構想を練っていて「福島県内だけにとどまらないこと、そして日本全国に忘れないでもらうために」と思いを明かす。

 22日からは東京・銀座で47都道府県の桜を一斉に披露するイベントを行う。「桜をきれいだと思う気持ちはバラバラではない。イライラしてる人たちが冷静になったり、きれいだと思ってくれたらいい」。震災で傷ついた心の復興のため、箭内氏は“絆の扉”を開き続けていく。

 ◆箭内 道彦(やない・みちひこ)1964年(昭39)4月10日、福島県郡山市生まれの47歳。安積高、東京芸大卒。博報堂を経て03年に独立。CM制作のほか、音楽活動、テレビ番組の司会者としても活躍。10年9月に結成した「猪苗代湖ズ」ではギターを担当。

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2012年3月9日のニュース