[ 2010年6月13日 06:00 ]

NHK交響楽団も今年から来年にかけてマーラーの交響曲を順次取り上げていく

 それは、作品そのものを頂点に指揮者と楽団がそれぞれの角を成す正三角形とでもいうのだろうか。特定の要素に偏ることなくバランスを重視しながら、親和性の高いアンサンブルによって作品の内面を浮き彫りにしていくというスタイルだった。オーケストレーションの粋を尽くして作られたマーラーの交響曲はとかく、テクニカルな意味での合奏能力や各奏者のソロの技量に重きが置かれがちとなる。その一方、昨今ではこの作曲家の陰鬱ともいえる心理面を必要以上に演奏に投影させる解釈も目立つ。しかし、アシュケナージとN響によるマーラーはそのどちらにも偏ることなく、交響曲第4番が有する特有の穏やかな世界とテクスチャーの見事さを自然体で描き出して見せたのだった。

 この原稿を書いている時点で、アシュケナージ指揮による6月定期Aプロ(6月5、6日、NHKホール)の公演は既に終了している。曲目はドヴォルザークのチェロ協奏曲(独奏デーヴィッド・コーエン)と交響曲第8番ト長調だったが、3年前に到達し得た親和性の高いアンサンブルを機軸とした音楽作りは健在であった。この日のステージの様子からは楽員との信頼関係も依然として良好であることも窺えた。

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2010年6月13日のニュース