[ 2010年4月2日 06:00 ]

ベルリン・フィルでの経験がアーティストとしての樫本をひと回り大きく成長させた

 その言葉通り、演奏が終わった瞬間、聴衆の大いなる満足を表すかのように心のこもった拍手がホール全体に鳴り響きました。それは演奏への賞賛と同時に世界最高のオーケストラのひとつとされるベルリン・フィルの第1コンサートマスターとしての彼の奮闘に対しても聴衆が一体となってエールを送るがごとく、温かい喝采がいつまでも続きました。

 ホールが熱気に包まれた一方で、終演後の樫本本人は意外にも興奮に酔いしれることなく、淡々とした面持ちでいました。「バッハの無伴奏を1日で全部弾いたら、何か新しいものが見えてくると考えましたが、ただ疲れただけですよ」と事もなげに言うのです。私は2月14日の原稿にも書いたのですが、彼は自らの努力や苦労を人に見せたくない性格のように感じました。この言葉もそんな彼の性格ゆえのものなのでしょうか。コンシェルジェが「昨年大みそかのベルリン・フィルのジルベスター・コンサートの映像を見ましたが、あれだけの腕利き奏者たちを従えてトップを弾くというのは、相当なプレッシャーではないですか?汗をかいての熱演でしたね」と尋ねると、「僕はいつも汗をかいていますから」とまた笑うのです。
とはいえ、ベルリン・フィルでの活動に話が及ぶと、徐々に本音を語ってくれました。「やはり、かなりのプレッシャーを感じますよ。ただ、隣に(先任コンマスの)ダニエル・スタヴラヴァさんが座っているときは、私のやりたいことに彼がピタリとつけてくれるので、とても安心して演奏できます」。自らも含めて3人いる第1コンマスの中でも、カラヤン時代から在籍しキャリアが最も長い、大先輩のスタヴラヴァに全幅の信頼を置いている様子でした。

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2010年4月2日のニュース